ロシア政治経済ジャーナル傑作集

「北野幸伯」という国際関係の研究家が発行している無料メルマガ「ロシア政治経済ジャーナル」の傑作集です。

【靖国参拝】★米英中ロは、何を恐れているのか?

       ロシア政治経済ジャーナル No.1009

                         2014/1/10

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全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは!

北野です。


いったい、中国、アメリカ、イギリス、ロシアはなぜ靖国参拝に反対なのでしょうか?

彼らは何を恐れているのでしょうか?



読者のCTさまから、メールをいただきました。


一部抜粋させていただきます。


慰安婦にしても、靖国神社にしても問題は過去のことですよね。

戦争は70年も前のことです。

世界中に靖国神社と同じ考えの施設はありますし、安部首相も世界の常識的なことをしたにすぎません。

それに対して、中国の脅威は現在進行中の問題です。

チベットなどの侵略や法輪功の方々への背筋も凍るような虐待などは、アメリカ含む世界にとってどう受け取られているのでしょうか?


日本は敗戦後、極めてアメリカにとっても、他の国々にとっても優等生だったではないでしょうか?

中国の今のワガママ放題ぶりは、日本から見てるととても真似できないある意味羨ましいくらいです。

私がもしアメリカの大統領だったら、昔の軍国主義がどうしたなどという問題より、たった今脅威となっている恐ろしい国を敵国とみなすと思うのです。


そう思うのは私が日本人だから身内びいきをしてるに過ぎないのかなあ…

アメリカや世界にとって、戦勝国、敗戦国ってそんなに大事なものなんでしょうか?

あの恐ろしい中国と手を組みかねないくらい?


どうして、日本の戦争観が変わるのを嫌がるんでしょうか?

そうなったら色々不都合があるのはわかりますが、実害まではないでしょう?

でも中国の問題は今生きている人々に害が及ぶでしょう?

普通実利をとって対処するものだと思うのですが…


現実に世界のメディアは批判的な報道が沢山出てますよね。

悔しい…そして不可解です。

もしよければ、その点をふまえてひとつメルマガを配信していただけたらなあ…

と思いました。>




どうでしょうか?


たぶん、大部分の日本人の考えと一致していると思います。


ここに、日本人と戦勝国(アメリカ、イギリス、ソ連、中国)の大きなギャップがあるのですね。


ここが理解できないと、中国の思惑通り戦勝国は再結集し、反日統一戦線が築かれ、


日本は再び大敗することでしょう。



▼非民主主義的組織「国連


全然関係ないような話からはじめます。


世界にはいろいろな国際組織がある。


その中で最大のものは「国際連合」です。


190以上の国々が加盟している。


「世界政府」とまでは行きませんが、それに近い構造になっている。


さて、国連には、もっとも重要な二つの機関があります。



1、総会

全加盟国が参加します。

多数決で決議を出します。

しかし、もっとも重要なこと。


「総会の決議には拘束力がない」のです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ウィキから。


<総会の決議は加盟国または安全保障理事会に対する勧告をすることができるにとどまり、法的拘束力を持たない。>



じゃあ、世界の問題はどうやって解決されるんだ?


それが、もう一つの最重要機関。



2、安全保障理事会

15か国の理事国から構成されます。

そのうち10か国は「非常任理事国」。

総会で、2年の任期で選ばれます。


残り5か国は「常任理事国」。

アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシア。


この5か国は、強大な権利を有しています。

それが【拒否権】。


常任理事国のうち一か国でも反対であれば、世界は動かないのです。


記憶に新しいのは、「シリア問題」ですね。


中国とロシアは、一貫してシリア攻撃に反対で、拒否権を乱発した。


それで、アメリカ、イギリス、フランスは、シリア攻撃をはじめることができませんでした。


これって普段考えませんが、ものすごい権利ではないですか?


もう一度考えてみましょう。


世界のほとんどの国が加盟している国連。(190か国以上)


全加盟国が集まる総会。


しかし、総会の決議には、なんの法的拘束力もない。


法的拘束力をもつのは、「国連安保理」のみ。


15か国ある国連安保理理事国のうち10か国は、非常任理事国で、任期があり、拒否権がない。


5か国は【常任理事国】で【拒否権】がある。


どうですか?


もっとわかりやすく、これを日本にあてはめてみましょう。


まず議会の決定に法的拘束力がない。


法的拘束力があるのは、15人の議員で構成される○○理事会の決定のみ。


15人のうち5人は、「永久に理事である」権利をもっている。


さらに彼らは「拒否権」をもっているため、全日本があることをのぞんでも、一人ですべてを覆すことができる。


どうですか、これ?↑


国連は、いかに【非民主主義的】組織かというのです。


おかしくないですか?


ところで、拒否権をもつ常任理事国アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシア(以前はソ連)。


彼らは、なんでそんな強大な権利を手に入れることに成功したのでしょうか?


そう、この5か国は、「第2次大戦時、日本、ドイツを中心とする枢軸国との戦いを主導した」から。


それはわかりますが、その戦争で得た「特権」を、70年も享受しつづけるのはどうなんでしょうか?


どう見てもおかしいですね?


今も昔もそうですが、ある国で独裁者が誕生すると、いろいろな「神話」を考えて、自分を神格化していきます。


その時絶対に必要になるのが、「完全悪」の敵。


私が絶対権力をもつ権利があるのは、「あの極悪勢力に勝利したからだ!」と。


そうやって彼らは、「自分が絶対権力を得る正統性」をつくりあげていくわけです。


で、今の「世界秩序」を維持するのに絶対必要なのが、「巨悪」の存在。


彼らにとっての「巨悪」とは、もちろん、ドイツと日本です。



▼第2次大戦の「神話」と「実態」


歴史には、「事実」と「解釈」があります。


「事実」とは、たとえば、1941年に日本とアメリカの戦争がはじまったなど。


「解釈」はなんでしょうか?


たとえば、アメリカは、「ずるがしこいジャップが真珠湾を奇襲しやがった!」という。


これが解釈。


人間誰でも、思想やイデオロギーをもっています。


それで歴史を、「事実」を羅列するだけではなく、思想やイデオロギーを通してみる。


これを「史観」といいます。


たとえば、共産主義の「史観」だと、「人類歴史は、階級闘争の歴史である」。


フランシスフクヤマさんの「史観」だと、「人類歴史は、全世界がリベラル民主主義になっていくプロセス」である。



「史観」というのは、「事実」とか「真実」とは違います。


ただの「解釈」ですから、いろいろな見方ができるわけです。



で、第2次世界大戦。


これに関する「史観」は戦勝国(主にアメリカ、イギリス、ソ連、中国)が決めた。


その主な内容は、


1、戦勝国(米英中ソ)は、絶対善である

2、日本とドイツは、絶対悪である



この二つが「大前提」。


でも、これって正しいの?



▼アメリカのインチキ


実をいうと、この


1、戦勝国(米英中ソ)は絶対善である

2、日本とドイツは絶対悪である



結構無理があるのです。


例をあげましょう。


まず、アメリカ。


この国は、「日本はアメリカを先制攻撃した極悪国家」としている。



確かに「先制攻撃した」のは「事実」です。


でも、「実はアメリカがそれを望んでいた」としたら????


「トンデモトンデモ~~~!!!」


そんな声が聞こえてきます。


では、証拠をお見せしましょう。


プーチン最後の聖戦」(詳細は→http://tinyurl.com/8y5mya3 )


から転載。


【転載ここから▼】


ルーズベルトの前のフーバー大統領(任期:1929~1933)が、衝撃の証言をしています。
 
2011年12月7日の産経新聞を見てみましょう。



真珠湾攻撃70年 「ルーズベルトは狂気の男」フーバー元大統領が批判

【ワシントン=佐々木類】ハーバート・フーバー第31代米大統領(1874~1964年)が、日本軍が1941年12月8日、米ハワイの真珠湾を攻撃した際の大統領だったフランクリン・ルーズベルト(第32代、1882~1945年)について、「対ドイツ参戦の口実として、日本を対米戦争に追い込む陰謀を図った『狂気の男』」と批判していたことが分かった。>
産経新聞12月7日)



え? 

あのルーズベルトが狂気の男? 

いったいどういうことなのでしょうか?



<米歴史家のジョージ・ナッシュ氏が、これまで非公開だったフーバーのメモなどを基に著した「FREEDOM BETRAYED(裏切られた自由)」で明らかにした。
 
真珠湾攻撃に関しては、ルーズベルトが対独戦に参戦する口実を作るため、攻撃を事前に察知しながら放置。

ドイツと同盟国だった日本を対米戦に引きずり込もうとした-などとする“陰謀説”が日米の研究者の間で浮かんでは消えてきたが、米大統領経験者が“陰謀説”に言及していたことが判明したのは初めて。>(同前)



これまでも「ルーズベルトは、真珠湾攻撃を事前に知っていた」(つまり、奇襲ではない)、「日本を対米戦に引きずり込もうとした」(つまり、好戦的な日本が、平和的なアメリカを攻めたわけではない)という陰謀論はあったと。
 
しかし、アメリカの大統領が、このことを断言しているとすれば、重みが全然違ってきますね。

「おまえ陰謀論者だろう?!」といわれたら、「いや、フーバー大統領がいってるんだよ」と反論できます。



<ナッシュ氏の著書によると、フーバーは第33代大統領のトルーマンの指示で戦後の日本などを視察。46年に訪日し、東京で連合国軍総司令部GHQ)のマッカーサー元帥と会談した。
 
その際、フーバーはマッカーサーに対し、日本との戦争は「対独戦に参戦する口実を欲しがっていた『狂気の男』の願望だった」と指摘。

在米日本資産の凍結など41年7月の経済制裁は「対独戦に参戦するため、日本を破滅的な戦争に引きずり込もうとしたものだ」と語ったという。>(同前)


要するに、「日本は、ずる賢いルーズベルトに、先制攻撃するよう誘導されちゃった」と。
 
なぜかというと、「アメリカがドイツと戦争したかったからだ」と。

なぜちゃっちゃと参戦できなかったかというと、ルーズベルトは「参戦しないこと」を選挙公約にしていたから。
 
なぜ、「日本ではなく、ドイツを嵌めなかったのか?」というと、ヒトラーは同じようにずる賢くて、アメリカの挑発に乗らなかったのです。>

【転載ここまで▲】



どうですか、これ?


アメリカは、「知っていた」だけじゃなく、日本を「誘導した」のです。


悪いのは、日本?


それともアメリカ?


少なくともフーバー元大統領は、「アメリカ(特にルーズベルト)の方が日本より悪い」と考えていた。



もう一つ。


日本は、従軍慰安婦とか、南京大虐殺とか、いろいろ批判されています。


しかし、人類史上空前絶後の「大虐殺」を行ったのは誰?


そうアメリカです。


広島、長崎に原爆を投下し、数十万人の日本人を大虐殺した。


そんなアメリカに、「日本は絶対悪だ!」なんていわれる筋合いはないのです。



▼イギリスの欺瞞


次、イギリス。


日本はなんやかんやと批判されています。


その最大の理由は、「日本が植民地をつくったから」でしょう?


そう、植民地をつくることは、「悪いこと」。


今、全世界の人がそう考えています。


では、問います。


「世界で一番悪い国はどこ???」


そう、「イギリス」です。


イギリスの植民地だった国。

キプロス
・マルタ
・インド
シンガポール
スリランカ
パキスタン
バングラディッシュ
ブルネイ
・マレーシア
モルディブ
アンティグア・バーブーダ
・アメリカ
・カナダ
グレナダ
・ジャマイカ
・セントクリストファー・ネイビス
セントビンセント・グレナディーン
・セントルシア
・ドミニカ
トリニダード・トバゴ
バハマ
・バルバドス
ベリーズ
ガイアナ

あ~、もう疲れた!

もっと詳しく知りたい方は、こちらをごらんください。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E9%80%A3%E9%82%A6


とにかくイギリスは、全世界に植民地があった。


それで、「日が沈まない国」だったのです。


でも彼らは偉そうに、「日本は絶対悪だ!」という。


日本が植民地をつくったから「悪だ!」というのなら、イギリスこそが、「世界最悪の国」ということになるでしょう?


違いますか?



▼侵略国家ソ連


さて、日本のいわゆる戦犯。


悪の日本の中でも、特に「極悪」といわれています。


しかし、戦勝国(絶対善?)ソ連の指導者はどうなんですか?


スターリンは、多くの歴史家が「ヒトラーと並ぶ極悪独裁者」と考えています。


たとえば戦争前の1937年、スターリンは自国民の大粛清を行いました。

ウィキから。



ソビエト連邦共産党内における幹部政治家の粛清に留まらず、一般党員や民衆にまで及んだ大規模な政治的抑圧として悪名高い出来事である。ロシア連邦国立文書館にある統計資料によれば、最盛期であった1937年から1938年までに、134万4923人が即決裁判で有罪に処され、半数強の68万1692人が死刑判決を受け、63万4820人が強制収容所や刑務所へ送られた[6]。

ただしこの人数は反革命罪で裁かれた者に限る。

ソ連共産党は最も大きな打撃を受け、旧指導層は完膚なきまでに絶滅された。>



ちなみに私が昔お世話になったカルムイキヤ。


カルムイキヤ人は、カスピ海の西上あたりに住んでいます。


スターリンは1943年、


なんとカルムイキヤ人全員を、「シベリア送り」にしました。


彼らは、シベリアで強制労働に従事し、スターリンが死んで故郷への帰還が許されるまでに、


「民族の半分が死んだ」といいます。


私がカルムイキヤであったあるおばあさんは、「シベリアで日本の兵隊さんたちと仲良くしていた」といい涙しました。


そういえば佐藤優さんが、「地球を斬る」でこんなことを書いておられました。



<ロシアの対応は理不尽だ。

第二次世界大戦末期の1945年8月9日、ソ連は当時有効だった日ソ中立条約を侵犯して、日本に戦争をしかけた。

それだけでなく、ソ連は60万人以上の日本軍人、軍属、民間人をソ連領に連行し、極寒のシベリア、灼熱(しゃくねつ)の中央アジアなどで強制労働につかせた。

その結果、6万人以上のわが同胞が、ソ連の地で生涯を終えた。

また、ソ連は、日本が国際条約に基づいて正当に取得した南樺太、千島列島(ウルップ島からシュムシュ島までの18島)、さらに帝政時代を含め一度もロシア・ソ連領になったことがない歯舞群島色丹島国後島択捉島を力によって奪取した。

現在のロシア連邦は、ソ連の継承国なので、ソ連の権利義務をすべて引き継ぐ。

あの戦争で、ソ連との関係においては、日本は「侵略された側」なのである。>



日ソ関係については、「侵略国家=ソ連」だそうです。


いずれにしても、スターリンソ連が絶対善で、日本は絶対悪という史観は、かなり無理があるでしょう。




▼中国は善か?


戦勝国の中で、唯一日本に「あれこれいう権利」がありそうなのは中国です。


確かに日本は中国に進出していた。


(しかし、当時の中国は、列強による「分割統治状態」で日本だけ非難するのは理不尽。)


だからといって、中国が「絶対善」とは到底いえません。


毛沢東の「大躍進」政策について、ウィキから。



<1958年に大躍進政策を発動。

大量の鉄増産のため、農村での人海戦術に頼る「土法高炉」と呼ばれる原始的な製造法による小規模分散生産を採用し、量のみを重視し質は全く度外視したため、使い物にならない鉄くずが大量に生産された。

農村では「人民公社」が組織されたが、かえって農民の生産意欲を奪い、無謀な生産目標に対して実際よりも水増しされた報告書が中央に回るだけの結果になった。

こういったことから大躍進政策は失敗し、発動されてから数年で

2000万人から5000万人以上の餓死者を出した。>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



2000~5000万人の餓死者!

もう一つ有名な、文化大革命は?

同じくウィキから。



文化大革命では紅衛兵による大量の殺戮が行われ、その範囲は劉少奇(1968年に失脚)ら中央指導部、教師ら「知識人」、中国国民党と少しでも関わりのあった者まで及んだ。

彼らの家族までも紅衛兵によって徹底的に迫害された。

また、紅衛兵運動は文化財を破壊するなどの極端な「左」傾偏向主義運動に発展した。

文化大革命による犠牲者の合計数は数百万から数千万とも
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~^^^^^

言われている。>



さらに、チベットはどうでしょうか?

同じくウィキから。



<酒井信彦は、ガンデンポタンチベット亡命政府)や西側諸国政府[要出典]による調査の結果、チベット動乱前後の中国によるチベット侵攻および併合政策の過程で、チベット全域で120万人にのぼる犠牲者が出た[2]としている。>



120万人の犠牲者。



▼安倍さんが「歴史修正主義者」である恐怖


さて、ここまでで「戦勝国(米英中ソ)は絶対善」「日本は絶対悪」という史観が、どれだけバカバカしいか、ご理解いただけたことでしょう。


しかし、米英中ソは、そういう史観をつくりあげ、全世界にひろめた。


これを、安倍総理は、「修正したい」ように見える。


いえ、安倍総理は、心の中で、完全な修正主義者だと思います。


たとえば、総理の



「侵略の定義はさだまっていない」発言。


東京裁判は勝者の断罪」発言。



これは、総理が戦勝国からおしつけられた「自虐史観」にそまっていないことを示しています。


ところで、想像される総理の「史観」とはなんでしょうか?


いままでの史観は、


「日本は絶対悪、米英中ソは絶対善」です。


これを修正するということは、



「日本は相対善、米英中ソは相対悪」。



あるいは、



「日本は絶対善、米英中ソは絶対悪」



にすることを意味します。


さて、CTさんはいいます。



<どうして、日本の戦争観が変わるのを嫌がるんでしょうか?

そうなったら色々不都合があるのはわかりますが、実害まではないでしょう?>



これ、実害があるんですね。


今の世界秩序は、「米英中ソは絶対善、日本・ドイツ絶対悪」という「神話」に基づいてきずかれた。


その神話によって、米英仏中ソは、世界の支配権(つまり安保理常任理事国という地位)を維持している。


しかし、その神話が「大嘘」であることがひろがればどうなります?



「米英仏中ロは、なんで勝手に世界を支配しているんだ?

なんで国連は非民主的組織なんだ?

彼らから特権を取り上げろ!」


となるでしょう?


これは、「実害」ですか?


彼らにとって「巨大な実害」といえるでしょう。



▼史観論争で日本は勝てない


さて、もし日本が、「2次大戦の史観は理不尽だ!」と声をあげたらどうでしょうか?


残念ながら、勝ち目は1%もありません。


なぜでしょうか?


戦勝国がもつ情報ピラミッド、


・米英情報ピラミッド

・欧州情報ピラミッド

中共情報ピラミッド

クレムリン情報ピラミッド


普段は対立しているこれらが一つになり、徹底的に日本バッシングを開始するからです。


第2次大戦で日本が勝てなかったのは、アメリカ、イギリス、中国、ソ連を同時に敵にまわしたからでした。


同じことを繰り返し、またもや負けるのは、馬鹿げています。



(*ちなみに同じあやまちを繰り返した国があります。

ドイツ。

第1次大戦で負けたドイツは、その後の国際秩序ヴェルサイユ体制に不満でした。

ヒトラーは、「ヴェルサイユ体制をぶち壊す!」と宣言し、人気をえます。

そして、ドイツは、戦争にひた走り、またもや大敗をきっしました。

日本は、ドイツの失敗から学ぶべきです。)



では、どうすればいいのでしょうか。


一つは、「脱自虐史観」を国内でひろめていくこと。


皆さんも、RPEを読めば「自虐史観て馬鹿らしい」と思うでしょう?


国内にこっそり、ひろめていくのはよいのです。



対外的にはどうするのか?


CTさんが書かれています。


慰安婦にしても、靖国神社にしても問題は過去のことですよね。
戦争は70年も前のことです。>


これです。


2度の世界大戦で敗れたドイツは、「今ある世界秩序の中でパワーをましていく」方法に転じました。


そして、争わずして、実質欧州の支配的地位を手にするようになったのです。


日本も、70年も前のことを、あ~だこ~だいうのはやめましょう。



「おじいさん、罪を着せられてくやしいでしょう。あやまった歴史観を俺が覆してみせます!」

というのは、少なくとも現時点では不可能な願い。



そうではなく、

「おじいさん、負けてくやしかったでしょう?

私たちは、おじいさんが守ってくれた日本を必ず守りぬきます。

次の戦争は起こしません。

やむをえず戦争になった場合、賢くあって今度は必ず勝ちます!」



そういって進んでいくのです。




平時ならともかく、今はもっと大事なことがあるでしょう?


それは、現実的脅威である中国にきっちり対応することです。


米英ロを敵にしたら、尖閣は確実に奪われます。


日本には、「歴史論争」で米英ロを敵にまわす余裕も時間もないのです。


(*慰安婦問題、南京大虐殺問題は、NGONPOに大金をわたして、やってもらったらいいでしょう。

数億円レベルでも、こっそり支援すれば全然変わると思います。)

世界一わかりやすい アメリカ没落の真実

http://yamatotamashii.web.fc2.com/
国際関係アナリスト
北野幸伯

◇まえがき
皆さん、こんにちは。
北野幸伯です。
皆さんもご存じのように、ここ数年で世界は激変しました。
一番大きな事件は、「100年に1度」といわれる大不況に世界が突入したことでしょう。
一般的に、その理由は

「アメリカで住宅バブルがはじけた」

サブプライム問題が顕在化した」

リーマン・ショックなどの危機が連鎖的に起こった」

と説明されます。
これはもちろん正しいです。
しかし、私がこれから皆さんにお話するのは、もっと「根本的」な理由。
実をいうと、アメリカは没落させられたのです。
誰に?

中国・ロシア・ドイツ・フランスなどにです。

こんなことを書くと、「陰謀論か?」と思う人もいることでしょう。
しかし、お読みいただければ、私の話は「陰謀論」とは全然関係ないことがご理解いただけるはずです。
資料も山盛りですので、「こりゃあ否定できないな」と思わることでしょう。
では、「アメリカ没落の真実」とはなんなのでしょうか?
詳細は後述するとして、「まえがき」ではサワリだけお話します。

1945~1991年を、一般的に「米ソ冷戦時代」といいます。
世界には二つの極があった。
すなわちアメリカとソ連です。
ところが1991年12月、ソ連が崩壊してしまった。
世界は「アメリカ一極時代」に突入していきます。
このことは、世界の構造に大きな変化をもたらしました。
中でも重要なのは、欧州で起こったことです。

欧州は1500~1900年まで、400年にわたって覇権国を輩出してきました。
この地域のエリートたちは、

「欧州こそ、世界の中心だ!」

と自負してきた。
しかし、第2次世界大戦後、その誇りはズタズタにされてしまいました。
大戦後、欧州の西半分はアメリカの支配下に、東半分はロシア(ソ連)の支配下に入ってしまった。
欧州のエリートたちはそれまで、アメリカ・ロシアを「野蛮な田舎者」として小馬鹿にしていた。
それが今では頭があがらない状態になっている。
彼らのプライドはひどく傷ついていたのです。
しかし、現実的に欧州は超軍事大国のアメリカやソ連にはかなわない。
それで、やむをえず40年以上にわたって耐え忍んできた。
そんな欧州のエリートは、「ソ連崩壊」のニュースを大喜びで歓迎しました。
この事件が意味するところは、欧州唯一の脅威が消滅した。もはや欧州の脅威は存在しない。
このことはつまり、

「欧州は、もはやアメリカの守りを必要としない。欧州はアメリカの言いなりになる必要はない」

ことも意味していました。
そればかりではありません。欧州のエリートたちはもっと先を考えます。

「欧州は再び世界の覇権を狙えるようになった。田舎者のヤンキーから覇権を取り戻そう!」

こうして、私のいう「アメリカ幕末時代」がスタートしたのです。
アメリカと欧州の戦いはロシア・中国をも巻き込み、全世界に拡大していきました。
そして08年、ついにアメリカ一極世界は崩壊したのです。
私たちは

「2008年と2010年は全然違う時代なのだ」

ということを、はっきり自覚する必要があります。
その為には、冷戦崩壊から08年までに何が起こったかをはっきり知っておく必要があるでしょう。
では、皆さん「アメリカ没落の真実」をお楽しみください。


◇第1章
○アメリカのアキレス腱
欧州がアメリカから覇権を奪うためにはアメリカを没落させる必要があります。
しかし、欧州は軍事力でアメリカにかなわない。
では、どうすればいいのでしょうか?
欧州は「アメリカのアキレス腱」を攻撃することにしました。
この章では、覇権国家・アメリカの弱点について解説します。


○基本が大事
世界を知るために、アメリカの現状を語ることは避けて通れません。アメリカはなんといっても、経済的にも軍事的にも世界唯一の超大国覇権国家なのですから。
これからお話することについて、前半部分は皆さん「聞いたことあるな」と思うに違いありません。ひょっとしたら、「そんなこと知ってるよ」と飛ばしたくなるかもしれません。
しかし、基本をとことん知ることがもっとも大切です。

国際情勢の真実について、実はCIAやKGBから得た極秘情報が重要なのではありません。答えは全部「常識」「基本」にあるのです。
しかし、普通の人はその情報の読み方を知りません。実は読み方がわかると難しいことは何もないのです。


貿易赤字
「なんだ双子の赤字の話か!そんなこと知っているよ」

そう、アメリカについて語られるとき必ず出てくる双子の赤字問題。ここをサラリとかわして次のお話をすることもできます。
しかし、ここが腑に落ちないと世界の現状を理解することはできないのです。
まず貿易赤字から(双子の赤字というと、普通財政赤字と経常収支(貿易収支・貿易外収支・移転収支)の赤字をいいますが、ここでは単純化するために貿易赤字の話をします)。
アメリカの貿易赤字は、1981年に280億ドルを記録した後、一貫して増え続けていきました。
84年には1000億ドル、87年には1500億ドルを突破します。その後増えたり減ったりしながらも、アメリカはず~っと貿易赤字をつづけているのです。
今、アメリカの貿易赤字はどうなっているのでしょうか?双子の赤字が問題視されはじめたレーガン時代。それでも最大は年間1500億ドルくらいでした。では今は?
ものすごいことになっているのです。
アメリカ商務省は06年2月10日、2005年の貿易赤字が、7257億ドル(約65兆円)(!)だったと発表しました。前年比で17.5%(!)の増加。これは、レーガン時代最大の年の約五倍に匹敵します(ちなみに、07年は7014億ドル、08年6959億ドルの赤字。09年は経済危機による消費激減により3786億ドルまで赤字が減少しました。しかし、構造的問題はかわっていません)。
このように、アメリカという国は既に30年も貿易赤字を続けている。そして、目玉が飛び出るほどの赤字を計上している。
ここで皆さん不思議に思いませんか?

「なんでアメリカは、そんなんで存在し続けることができるのですか?」

その理由は少し後で申し上げます。


財政赤字
1963年、若くてハンサム、金持ちで人気のあったケネディー大統領が暗殺されます。その後をついだのがジョンソン。
この人は、明らかにアメリカの力を過信していました。
1964年1月8日、年頭教書でジョンソンは、「政府は今日、この場で貧困に対する終わりなき戦いを宣言する!」と語り、「貧困撲滅キャンペーン」を開始。
政府が貧困を人工的になくすとはどういうことでしょうか?美しい言葉でいえば、「社会保障社会福祉を充実させる」となります。要は、政府の支出を増やして、貧しい人々を救おうと。
さらにジョンソンは「偉大な社会」(グレートソサイアティ)を作ると宣言します。なんだか毛沢東の「大躍進!」「文化大革命!」を思い出させる誇大妄想的なネーミング。
意味は、彼自身の言葉を借りれば、「豊かな社会、力強い社会ではなく一段上の偉大な社会」「万人の豊かさと自由を基盤にする社会」「美しいものへの欲求と友人を持つ願望を満たすことができる社会」等々。
このように「貧しい人々を救う」という発想はすばらしいに違いありません。しかし、一つ条件があります。

そう、国家の収入の範囲でなら(ここでケインズ主義者から反発があるに違いありませんが……)。

ジョンソンは偉大な社会を作ることだけを考えていたわけではありません。もっと、とんでもない間違いを(?)犯してしまいます。
ベトナム戦争への介入を決めたのです。
アメリカは、1965年から北ベトナムへの空爆を開始。その後泥沼にはまっていきました。
ベトナム介入のせいで、1965年から68年までに、軍事費は年平均18%の割合で増加していきました。一方で税収は増えなかった。
偉大な社会とベトナム戦争。増加しつづける福祉費と軍事費。世界唯一の超大国アメリカといえどもこれは痛い。
アメリカ財政赤字の起源はここにあります。
建国からジョンソンが登場するまでの約180年間、アメリカの国家財政は赤字なしの方針で運営されてきました。戦争中に赤字が出ても、終わればすぐ返済を済ませていた。
ジョンソンの誇大妄想的政治により1968年の赤字は250億ドルに達します。しかし、それは地獄への入口に過ぎなかったのです。
ジョンソンはその在任中に448億ドルの財政赤字を出しました。
次のニクソンは6年間で670億ドル。
フォードはわずか2年ちょっとの在任期間中にニクソンの倍の1269億ドルの赤字を出しています。
次のカーターは4年間で2269億ドル。
「悪の帝国ソ連」との最終対決を決意したレーガンは、軍事費を1980年の1340億ドルから2900億ドルに倍増させました。彼の在任中、財政赤字は1兆3400億ドル。
数字を見ていただければわかりますが、赤字は「雪ダルマ式」に増加しています。
ブッシュ(パパ)もレーガン時代8年にほとんど匹敵する1兆400億ドルの赤字。
クリントンは奇跡の人です。なんと2期目の98年から財政を黒字にしたのです。アメリカの財政は以後4年間にわたって黒字がつづきました。
ところが、戦争好きのブッシュ・ジュニアの登場で状況は一転。
アメリカがイラクを攻めた03年は3771億ドルで過去最大の赤字。04年はこの記録をさらに更新し、4125億ドルの赤字。05年は、またまた記録を更新し4270億ドル(約38兆円)。
「100年に1度の大不況」の真っただ中に大統領になったオバマさん。彼の時代になってアメリカは、なんと毎年100兆円(!)をこえる赤字を計上しています。
このように、アメリカという国は、1964年から現在に至るまで、ニクソンの初年度と98~01年を除いて、45年以上も財政赤字を続けてきているのです。
問題は、「なんでアメリカは破産しないの?」ということ。


○普通の貿易赤字国では
どうしてアメリカは破産しないのでしょうか?
基軸通貨を持たない日本が貿易赤字をず~とつづけた場合どうなるのでしょうか?
普通通貨が下がりつづけ、輸入品の値段が高騰、インフレが起こります。

例を挙げましょう。
1994年のメキシコ。
北米自由貿易協定NAFTA)が発効したのは94年1月。結果、メキシコはアメリカからの輸入が急増し、貿易赤字が拡大していきます。
貿易赤字になると赤字国の通貨が安くなる。しかし、当時のサリナス政権はメキシコの通貨ペソが下がらないよう、介入(買いささえ)を行っていました。
しかし、赤字が恒常的であればいつまでも買い支えられません。94年12月1日に就任したセディジョ大統領は、「これ以上ペソを維持するのは無理だ!」とあきらめます。
そして94年12月20日、ペソを15%切り下げ。
これをきっかけに、資本が一斉に逃避し、外貨準備が底をつき、通貨危機に陥ったのです。通貨危機の影響で、メキシコの国内総生産GDP)成長率は95年、マイナス6.9%。インフレ率は52%。
これが貿易赤字の国で普通に起こることです。
ところで、メキシコはNAFTA発効後、わずか一年間の貿易赤字増加で通貨危機に陥りました。
じゃあ、30年も貿易赤字をつづけているアメリカは?


○ドルの還流
アメリカはもう30年間も貿易赤字をつづけている。
他の国ならとっくにドルが大暴落していいはずなのにシレーと生き延びている。いったいなんなんでしょうか?

アメリカが貿易赤字財政赤字をつづけていても、ドルが暴落しない理由は二つ。
1、ドルが還流している。
2、ドルは基軸通貨である。

既述のようにアメリカの貿易赤字は膨大。毎月大金が国から流出していく。
しかし、出て行ったドルがまた返ってくるようにすればいいですよね?

「そんなことできるのでしょうか?」

これはいろいろ方法があるのです。
国の競争力を示すのが国際収支。国際収支は大きくわけると経常収支と資本収支にわかれる。ドルを還流させるというのは、美しい言葉で「貿易収支の赤字を資本収支の黒字で補う」といいます。

例えば

・高金利
いうまでもなくお金は低金利の国から高金利の国に流れます。
レーガンさんは高金利政策を取り、世界から資金をかき集めました。世界から資金をかき集めるというのは、要は「ドルを買わせる」ということです。
日本ではず~とゼロ金利がつづいていました。アメリカは金利をしばしば変えますが、5%くらいだとする。そうすると、資金は日本からアメリカにどんどん流れていく。
このお金がドルを支えていたのです(今回の経済危機により、アメリカも低金利政策にシフトしています)。

国債
貿易赤字で出ていくドルをどう還流させるかというはなしですが、財政赤字にもからんでいるお話。
日本や中国は、貿易黒字でどんどんドルがたまっていく。その金で米国債を買います(還流)。おかげで、アメリカは財政赤字があっても余裕で生きていける。
80年代、日本の生命保険や金融機関などは米国債を大量に購入していました。
90年代になると今度は、郵貯・簡易保険・国民年金など公的資金米国債を買い始めました。
今アメリカの財政を支えているのは日本と中国です。
日本はアメリカ幕府の天領だからしかたがありません。
中国は貿易黒字でたまったドルを米国債にする。しかし、この国はアメリカ幕府の天領ではありませんから、

米国債外交カード(脅し)にもつかえるよね~」

などと考えて買っているに違いありません。

・株
もっともいい例は90年代後半。
アメリカは90年代半ばからIT革命を宣伝しまくりました。そして、97年にはタイ発の、98年にはロシアの金融危機があり、「やっぱ投資はアメリカだ」ということになった。
結果ニューヨーク・ダウは95年の3900ドルから、2000年1月の11900ドルまで5年間で300%の上昇。
世界の人がアメリカの株を買うということは、要はドルを買う、あるいはドルを還流させるということ。

他にもいろいろとありますが、この辺でやめておきましょう。
アメリカが莫大な貿易赤字を25年間もつづけていながら、存在している理由。
一つ目は、ドルが還流するシステムをうまいこと構築しているからでした。


基軸通貨
次に基軸通貨の話。
これが、どうも日本人にはわかってもらえないのです。
普通貿易赤字国の通貨はどんどん下がっていくものですが、世界最大の貿易赤字国アメリカのドルはなかなか下がりません。
これはドルが基軸通貨だから。
基軸通貨というのは国際間の資本・貿易取引において、民間・公的部門を問わず幅広く使用されている決済通貨のこと。
この基軸通貨という用語がよくないのかなと思います。わかりにくいです。もっとわかりやすくいえば、国際通貨・世界通貨ということ。
世界通貨という言葉は普通使われませんが、もっともピッタリくる用語の気がします。
通貨の上がり下がりは商品と同じで、需要と供給で決まる。
普通、貿易赤字の国では自国通貨の需要が外貨需要よりいつも少なく、どんどん下がっていきます。
ところが、世界通貨ドルの需要は世界中であるので、なかなか下がりにくいのです。
どういう需要があるのでしょうか?

・アメリカと他国の貿易決済通貨として
例えばアメリカとロシア、アメリカと中国が貿易をするとき、理論的にはルーブル人民元で取引をしてもいいはずですね。ところがそんな話は聞きません。
ロシア企業がアメリカ製品を輸入するとき、ドルを買って支払いをする。ロシア企業がアメリカに輸出するとき、代金をドルで受け取る。

・他国と他国の貿易決済通貨として
例えば、日本が中東から石油を買う。アメリカはまったく関係ありません。ところが、どういうわけか日本の会社はまずドルを買い、それで石油を買う。
例えば、ロシアと中国が貿易をしている。理論的にはルーブル人民元で払えばいい。ところがどういうわけかドルで取引が行われている(経済危機後は、「ドルはずし」「自国通貨による貿易」の動きがひろがっています。詳細は最終章で)。

・外貨準備として
世界の国々の中央銀行がドルを外貨保有している。

・世界中の民間人がドルを保有している
これって、なかなか日本人にはわかりにくいですね。
しかし、例えば自国通貨ルーブルを信用できなかったロシア人にとってはあたり前のことでした。
例えば、シベリアの奥地に住む80代のおばあちゃん。貯金はドルでタンスにが常識だった。
なぜかというと、ルーブルの価値はインフレでどんどん減っていく。
なぜタンスかというと、ロシアでは数年に一度金融危機が起こり、銀行が大量倒産していたから。

このようにドルは世界通貨なので、膨大な貿易赤字があっても非常に緩やかに下げてきました。
1971年まで1ドルは360円の固定相場。この年8月15日、ニクソンは金とドルの兌換停止を宣言します(ニクソン・ショック)。
1973年2月から変動相場制に移行。80年代の半ばまでに1ドル250円まで下がってしまいました。
それでもしんどくなり、85年9月のプラザ合意。円はこの後120円まで上がり、その後上下しながら95年には80円まで上がっています。
このようにドルは1971年から1995年の25年間で、対円で約4分の1以下になった。

まとめると、

・長期的には膨大な貿易赤字により、ドルは下がりつづけている。
基軸通貨といえどもドルを世界中にばらまきつづければ価値が下がっていく。しかし、基軸通貨ゆえにその下落過程は緩やかなのです。

・中短期的にはドル還流の効果により上下する
クリントンのようにドル還流を効果的に行えれば資金がアメリカに集中し、ドル高になることもある。

となります。


基軸通貨の特権
基軸通貨の特権について。
まず簡単にその真髄を書き、そのあとゆっくり説明していきます。
皆さん、自営業を営んでいると想像してください。
取引先に1000万円の借金があります。
取引先が、「Aさん、早く返してくださいよ~。長年のつきあいですから、こんなことしたくありませんが、どうしても返してくれない場合は、法にうったえますよ」といってきます。
Aさんは、お店を担保に銀行から1000万円借りて返済しますね。
しかし、借金が1億円あったらどうでしょうか?
銀行も貸してくれませんから、破産するしかありません。
これが、日本やメキシコやロシアやアルゼンチンなど普通の国の状態です。
では、アメリカの場合はどうなのか?
取引先に10万ドルの借金があるとします。

取引先「ジョージさん、早く返してくださいよ~。長年のつきあいですから、こんなことしたくありませんが、どうしても返してくれない場合は、法にうったえますよ!」

ジョージ「OK、OK!」

ジョージさんは、四角い紙を取り出し、「100000$」と書き、取引先に渡しました。
取引先も満足して帰っていきました。
ところがジョージさんは今度、100万ドルの借金をしてしまいました。借金取りが押し寄せます。
ジョージさんは、四角い紙を取り出し、「1000000$」と書き、借金取りに渡しました。借金取りは満足して帰っていきました。

一言でいうと、これが普通の国と世界通貨(基軸通貨)を持つ国の違いです。
簡単にいえば、アメリカは「世界通貨を発行する特権を持っている」。いくら借金があっても「刷ればいい」となります。

私は、『ボロボロになった覇権国家』という本を出した後、「基軸通貨について日本人は理解できない」ことがわかってきました。
それは円が非常に安定した通貨だからでしょう。弱い通貨の発展途上国で仕事をしていればすぐ理解できます。
それで、過去のさまざまな本を読みあさってみたのですが、書いてあるじゃないですか。しかし、非常にサラリと。重要なことが茶飲み話程度に書いてあります。
1990年11月初版発行、大前研一先生の『ボーダレス・ワールド』。この本を参考にしながら、基軸通貨の特権について説明していきます。

「アメリカに「対外貿易」はない。」(「ボーダレスワールド」大前研一

え!アメリカに対外貿易はないのですか?

「アメリカは外国から物を買うための「外貨」を稼いだためしがない。」(同前)

ああ、まったくそのとおり。全部ドルで支払いますからね。

「外国商品の購入に使われる資金は依然としてドル建てなので、そうした取引は、たとえばカリフォルニア産のオレンジやテキサス産のパソコンを買うのと、いささかも変わりがない。」(同前)

う~む、だんだん見えてきました。

「日本が外国だからといって、アメリカは日本に対して外貨(すなわち円)の交易をしているわけではない。ここが国際決済通貨=ドルをかかえて国とそれ以外の国との基本的な差である。アメリカには対外貿易などないのである。」(同前)

なるほど~~。国内の取引なら、「貿易赤字だ!」などと大騒ぎしません。
大前先生は「ドル安にすれば、貿易赤字は解消する!」と主張する愚かなアメリカ政府に警告します。

「政策担当者は「ドルを安くすれば貿易競争力が高まる」と信じて、ドルの価値を下げている。これでは遅かれ早かれ、ドルがアメリカの貿易相手国に決済通貨として受け入れられなくなる日が、必ずやってくる。」(同前)

この部分は、ドル安が進むとドルが基軸通貨・国際通貨・世界通貨の地位から転がりおちることを指摘しているのです。
決済通貨じゃなくなるとどうなるのでしょうか?

「これは大問題だ。そうなるとアメリカは、輸入超過分の代金支払いに外国通貨を借りなければならなくなる。」(同上)

つまりアメリカは普通の貿易赤字国に転落するという意味。アメリカは恒常的貿易赤字大国ですから、こうなったらあきらかに破産します。

「したがってドルを強くしておくことが、最もアメリカの利益になるのだ」(同前)

ブッシュパパもクリントンもこのことがわからず、一生懸命日本をたたき、ドル安に誘導していました。
ところが94年12月、これも賢いゴールドマンサックス共同会長ルービンが財務長官に就任。大前先生の本を読んだかのごとく、ドル高株高政策をとり、空前の好況をつくりだしました。
さらに先生は、ドルが基軸通貨であるかぎり債務は問題でないという話をしています。

「この種の「債務」がアメリカの害になることはない。アメリカはブラジルとは違う。ブラジルの場合には、国際的に通用する通貨で、対外決済を行なう必要がある。それができないと、どこからかドルを借りてこなければならない。それに対してアメリカは、自国通貨のドルで決済することができる。ブラジルにとって問題なのは、現在同国で起こっているように、自国通貨の価値が下がれば、借りようとするドルが相対的に高くなることである。このような「債務の悪循環」は、国際決済通貨であるドルを国内経済でも使っているアメリカの場合には起こらない」(同前)

なんとすばらしい解説。
さらに大前先生は、アメリカが債務を抱えたまま世界の覇権国家でいつづける方法についても提示しています。

「もっと安全な手として、債務増大は解消されないが、やはりアメリカの繁栄を確保できる道がある。それはドルを強く、安定に保つことである。カネがアメリカに流れ込むのは魅力的な市場だからで、「その流入が止まるのではないか」という心配こそ、アメリカと友好諸国の関心事にならなければならない」(同前)

これは既に説明したように、ドル還流システムがしっかりし、ドルが強く基軸通貨であれば、借金をいくらしても繁栄をつづけられるということ。
なんとなく、「基軸通貨ってすごいな~」とご理解いただけたでしょうか?いくら借金しても大丈夫なのです。
ダメ押しでマサチューセツ工科大学レスター・サロー教授の言葉を。

「もしドルが基軸通貨でなくなればアメリカはこんなに巨額の貿易赤字を抱えてはおれない。基軸通貨は貿易決済に使われる。他の国なら赤字分はドルを借りて支払わなければならないがアメリカは必要なだけドル紙幣を印刷すればよかった。し
かし基軸通貨でなくなればそうはいかない」

大前先生もサロー教授も同じことをいっているのです。つまり――

「ドルが基軸通貨でなくなれば、アメリカは没落する」

と。
アメリカは、事実上世界通貨の発行権を握っている。
この特権をアメリカは維持したいと思わないでしょうか?
当然思うでしょう。
大前先生がこの本を出版されたのは1990年。
ルーブルソ連は最末期。
ドルに対抗する通貨といえば、円とドイツマルクでした。
しかし、日本はその後バブル崩壊で暗黒の10年に突入。
そして、ドイツは東西統一で苦しい。
アメリカはといえば、クリントン・ゴア・ルービン・グリーンスパンなど優秀な指導者に恵まれ、空前の好況期に突入していきました。
大前先生でなくても、「ドル体制は永遠につづく」と思ったことでしょう。
しかし、盛者必衰のことわり通り、ドル体制を脅かす存在がぼちぼちと登場してきたのでした。


○アメリカを没落させる方法
皆さんちょっとイメージ力を働かせてみましょう。
あなたはある国の大統領で、アメリカが大嫌いだとします。
もしあなたが「アメリカを没落させてやろう!」と決意した場合、どのような方法が考えられるでしょうか?
ただし、アメリカは超軍事大国ですから戦争という選択肢はありません。
アメリカは世界一の貿易赤字国・財政赤字国・対外債務国である。
しかし、基軸通貨・ドルのおかげで生きのびている。
どうすればいいでしょう?
そう、そのとおりです。

ドルを基軸通貨でなくしてしまえばいい。

そのためにはどうすればいいのでしょう。
簡単です。

ドルの使用量を減らせばいい。

悪の反米大統領が戦略を構築しました。
1、目標=覇権国家・アメリカを没落させること。
2、戦略=ドルを基軸通貨でなくすこと。
3、戦術
・他国との貿易にドル以外の通貨を使う。
・外貨準備にドル以外の通貨を使う。
・「アメリカは双子の赤字タイタニックだ」と風説を流布する。
米国債を大量に購入しつづけ、後で売り浴びせる。

等々いろいろ考えられますね。
実をいうと、これは私のファンタジーではありません。実際に世界で起こっていることなのです。詳細はぼちぼち話していきます。
もう一つ想像力を働かしてみましょう。アメリカは借金を永遠につづけ世界最高の生活水準を謳歌できる特権を持っている。それは、同国が世界通貨発行権をもっている、つまりドルが基軸通貨だからである。ドルが基軸通貨でなくなれば、他の財政赤字貿易赤字国同様、債務返済ができず没落は必至。

ここで質問です。

「アメリカはもしドル基軸通貨体制に挑戦してくる国・勢力があった場合、その国・勢力と戦うでしょうか?」

これは当然戦うでしょう。
もう一つ質問です。

「その場合、アメリカは軍事力を使ってでもドル体制を守るでしょうか?」

ここで、我々平和ボケ日本人の脳はフリーズ状態になります。日本人は、「第二次大戦後は戦争のない平和な時代になった」と幻想を抱いているので。
しかし、アメリカは第2次大戦後、中国内戦・朝鮮戦争ベトナム戦争・第1次アフガン戦争・湾岸戦争・ユーゴ空爆・第二次アフガン戦争・イラク戦争他数多くの紛争に介入しています。これでも世界は平和になったといえるでしょうか?

頭の片隅に次の言葉をとどめておいてください。

「アメリカはドル体制に挑戦する国があれば、軍事力を使ってでもそれを阻止する(かもしれない)」


○アメリカの恐怖
アメリカがなんとしてでもドル体制を守りたいのは、この体制が崩れればアメリカは普通の国になってしまうからです。
普通の国というのは、いうまでもなく普通の財政赤字国・普通の貿易赤字国。
そして、アメリカは普通の財政赤字貿易赤字国同様のプロセスをたどることになる。
財政赤字によって没落する場合というのは、要するに誰もアメリカ政府に金を貸してくれない状態になる。つまり、誰も米国債を買わなくなるということを意味します。アメリカは当然国債金利を引き上げるでしょう。それでも買い手がつかない状態を指すのです。
例を挙げましょう。98年8月にロシアで金融危機が起こりました。この直前の短期国債金利は135%(!)でした。
その後、ロシアはどうなったか?
ルーブルは、98年7月1ドル6ルーブルから、年末までに20ルーブルまで下落してしまいました。ルーブルの価値は、わずか5ヶ月で3分の1になったのです。
この部分サラリと読み流さないでください。ドルの価値が3分の1になるということは、1ドル=30円(!)になるということです。
輸入品の値段は単純計算で三倍になるのですから、どれほどのインフレになるか想像できるでしょう。
ちなみに98年ロシアのGDPはマイナス5%、インフレ率は84%でした。
貿易赤字については先にメキシコの例を挙げました。基本的に財政赤字でも貿易赤字でも同じような結果になります。

つまり、通貨の下落とハイパーインフレ

ちなみに、現代史を振り返ると、92年には欧州で、94年にはメキシコ発、97年にはタイ発、98年にはロシアでそれぞれ通貨・金融危機が起こっています。しかし、世界恐慌にはいたりませんでした。それは、ある国で金融危機が起こると国際通貨基金IMF)や先進国が救済するからです。
しかし、アメリカのような超大国が危機に陥るとき救済は可能なのでしょうか?

もう一つの心配はアメリカが覇権国家であるということです。覇権国家の没落というと、20世紀前半のイギリスを思い出します。イギリスの没落で、基軸通貨はポンドからドルに移行しました。

その期間、二つの大戦が起こっています。
91年には共産陣営の覇権国家ソ連が崩壊しました。アメリカの没落はソ連崩壊以上のインパクトでしょう。
数字を見てみます。ソ連時代、ドルとルーブルは大体1対1の割合で交換されていました。それが、ソ連崩壊後はどうなったか?

崩壊から1年後の92年12月、1ドル=415ルーブル(!)、2年後の93年12月、1ドル=1247ルーブル(!!)、94年12月、1ドル=3550ルーブル(!!!)。
92年のインフレ率は2610%(!!!)、93年は940%、94年は320%。
もう一度言います。ここをサラリと読み流さないでください。
皆さんが、セッセと貯金に励み、3億円貯めたとしましょう。

「あ~、これでもう死ぬまで安心して暮らせる。仕事ばっかりで、妻にはさびしい思いをさせた。これからは、いつも一緒で悠々自適の生活をしよう!」

インフレ率2610%というのは、3億円の価値が1年後に1153万円になる。それが翌年にはさらに9分の1に。つまり、128万円。翌年さらに3分の1になり42万円の価値しかなくなってしまった。
これはファンタジーではありません。実際にロシアで15年前に起こったことです。
アメリカは世界一の財政赤字貿易赤字・対外債務国家。この国がソ連のようにならない保証はまったくないのです。
アメリカがドル基軸通貨体制をなんとしても守りたい理由がおわかりいただけたでしょうか?


○ドル体制の危機
まえがきで触れたように、ソ連崩壊により欧州は

「再び世界の覇権を狙える時代になった!」

と喜びました。
しかし、軍事力ではアメリカにかなわない。
では、どうやってアメリカから覇権を奪うのか?

通貨を統合することで。

フランス大統領顧問のジャック・アタリはいいました。

「通貨統合・政治の統一・東欧やトルコへの(EC)拡大。これらが実現できれば、欧州は21世紀アメリカをしのぐ大国になれるだろう」

そして、1999年1月1日。欧州通貨統合がスタートしました。
ユーロの誕生です。
当時参加11カ国の人口は2億9000万人、国内総生産GDP)は6兆3000億ドル。アメリカは2億7000万人の7兆8000億ドル。
ついに世界にドル体制を崩壊させる可能性のある通貨が登場したのです。
先ほど、アメリカは軍事力を使ってでもドル体制を守ると書きましたが、さすがに欧州を攻撃することはできません。
しかし、別の国を攻撃することになります。
それがイラク
サダム・フセインは、ユーロが誕生した翌年2000年の9月24日、「石油代金として今後一切ドルを受け取らない」と宣言しました。では何で受け取るのか?

ユーロ。

フセインをそそのかしたのは、ユーロを基軸通貨にしたいフランスのシラク大統領。
湾岸戦争経済制裁下にあったイラク
石油は国連経由でしか売れませんでした。評判の悪い独裁者フセインは、一人で国連を動かせません。
しかしフランスが国連を動かし、フセインの要求は2000年10月30日に受け入れられることになります。
ドルでしか買えなかった石油がユーロでも買えるようになる。
もしドミノ現象がおき、「石油はユーロで取引」がスタンダードになった日にゃあ。
アメリカはユーロを買って、石油を買うことになる。しかし、アメリカは世界一の赤字国家。
そう、アメリカの没落は不可避です。
アメリカがイラクを攻撃した理由。「大量破壊兵器」もなく「アルカイダとの関係」もなかったフセインイラク。CIAは「すいません間違えました」といい、ブッシュは「CIAのせいだ」といっています。
しかし、CIAが本当に上記二つの事実を知らなかったと信じる人が世界にいるでしょうか?

ドル体制防衛が攻撃の一因と考えた方が自然です。
私はこのことについてメルマガでも本でも一貫して書いているのですが、日本ではあまり知られていないようです。
というか、フセインの決定と戦争が結びつかないということでしょうか。
しかし、新聞に事実は載っています。

例えば06年4月17日付の毎日。
イラクの旧フセイン政権は00年11月に石油取引をドルからユーロに転換した。国連人道支援「石油と食料の交換」計画もユーロで実施された。米国は03年のイラク戦争後、石油取引をドルに戻した経過がある」

本当はユーロをドルに戻すために攻めたのですが。
ここまで通貨について書いてきました。このことは今後、繰り返し繰りかえし形を変えて登場してきます。
なぜなら世界の指導者は知っているのです。

「アメリカを没落させるにはドル体制を崩壊させればいい」


◇第2章
○資源争奪戦
イラク戦争の動機について「ドル基軸通貨体制防衛が原因だ」と書きました。
しかし、もう一つ重要な理由があります。

時事通信07年9月17日付を引用してみましょう。
<「イラク開戦の動機は石油」=前FRB議長、回顧録で暴露
07年9月17日15時0分配信 時事通信
【ワシントン17日時事】18年間にわたって世界経済のかじ取りを担ったグリーンスパン米連邦準備制度理事会FRB)議長(81)が17日刊行の回顧録で、2003年春の米軍によるイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露し、ブッシュ政権を慌てさせている。>

FRBグリーンスパン前議長は「イラク開戦の動機は石油だった」と暴露している。
これを聞いて、世界の指導者たちは「さもありなん」と思います。しかし、日本人の大部分は「???」。
「平和ボケ」している日本人は「石油のために人殺しする」のが信じられない。
しかし、これは厳然たる事実なのです。
この章では、国際関係を動かすファクターとして非常に重要な「資源」について触れていきます。


○アメリカの本音と建前
アメリカの話をつづけます。
1991年のソ連崩壊後、アメリカは一種のアイデンティティークライシス状態になりました。1945年以降46年間、米ソが対峙する冷戦が常態だったのですから当然です。

「次はどっちに進んだらいいのだろうか?」

と混乱したとしても不思議ではありません。
そんなアメリカ上層部に進むべき方向性を与えてくれたのが、フクヤマさんの「歴史の終わり」と、ハンチントン博士の「文明の衝突」。
フクヤマさんは、「リベラルな民主主義が政治の最終形態であり、歴史の終わりである」といいます。
ハンチントン博士は、「二極(米ソ)体制が崩壊した後の世界は文明同士の衝突が起こるだろう」と予測します。
そして現在、世界はお二人の予想どおり進んでいるように見えます。
例えば、旧ソ連諸国で次々と起こったカラー革命。これはリベラルな民主主義を求める民衆が、独裁的な体制を崩壊させたように思える。
また、9.11テロ、アフガン攻撃、イラク攻撃と続く一連の流れは、「キリスト教vsイスラム教の戦い」、つまり文明間の衝突のように見えます。
皆さんも同じような意見の専門家の話を何度も聞いたことがあるでしょう。
本当にそうなのでしょうか?
ブッシュ前大統領は二言目には「民主化」「民主主義」と言いたがりました。ですから、アメリカは「世界をリベラルな民主主義にし、歴史を終わらせる」という崇高なミッションを遂行しているように見せています。
しかもブッシュは敬虔なキリスト教徒ですから、「異教徒イスラムをぶちのめしたい」という強い気持ちを隠すことができなかった。
事実ブッシュは03年、エジプトで開かれた米―アラブ首脳会議で、「アフガニスタンでテロリストと戦えと神に告げられ、そうした。イラクについても、神に圧政と戦えと告げられた」と語っています。

さて皆さん――

ブッシュは、神様と民主主義のために戦争を開始したのでしょうか?
とんでもありません。

これがインチキであることを、一瞬にして証明しましょう。
もしアメリカがキリスト教の神のために戦っているのであれば、イスラム教国と仲良くしてはいけないですね。
もしアメリカが民主主義のために戦っているのなら、「独裁者」と仲良くしてはいけないですね。
実際、アメリカはアフガンを攻め・イラクを攻め・今はイランを敵視していますから、「そのとおり!」ではあります。
まるごと、そうでしょうか?

サウジアラビア
アゼルバイジャン
カザフスタン
トルクメニスタン

思いつくままザッとあげましたが、この四国の特徴はなんでしょう?
そう、イスラム教の独裁国家であること。

サウジアラビアは、政教一致絶対君主制(!!!)。

アゼルバイジャンソ連崩壊で誕生した新しい国。
初代大統領はKGBの大物だったゲイダル・アリエフ。彼の死後、息子(!)のイリハム・アリエフが大統領になっています。一応選挙は行われましたが、公正な選挙だと思っている人はいません。

カザフスタンも同じく旧ソ連。大統領のナザルバエフはゴルバチョフが「ゆくゆくはソ連書記長に・・・」と考えていた優秀な男。米中ロといい関係を築き、経済を急成長させています。
しかし、独裁は独裁。
彼は1990年から現在まで20年も政権の座に居座っています。

トルクメニスタンも同じく旧ソ連
前大統領のニヤゾフは独裁者の多い旧ソ連でも一番の独裁者でした。国中に彼の肖像が掲げられ、お札にも大統領の顔。1999年12月、議会(一応ある)は、「大統領の任期は無期限(!)」と決定しています(ニヤゾフは06年12月死亡)。

一体なぜこの四国を例にあげたのか?
これらの国々はイスラムで独裁なのにアメリカとそこそこいい関係を築いているのです。
ですから、ハンチントン博士のいう「文明の衝突」が起こっているとか、アメリカが「歴史の終わり」を推進しているというのはインチキなのです。
決して二人の偉大な学者さんがインチキなのではありません。アメリカが自己の行動を美化するために、二人の理論を利用しているということ。
ところで、これらの国々には他にも共通点があります。

そう、石油か天然ガス、あるいは両方がたっぷりある。

そうなのです。
これらの国々はイスラム教で独裁ですが、石油・ガスがたっぷりあり、アメリカに反抗していない。だから、アメリカは独裁者を保護しているのです。
一言でいえば、アメリカにとって「石油は民主主義よりも大事」ということ。
こういわれてもピンとこないでしょう。

「え~~~、あの正義を重んじるアメリカが?とうてい信じられません」

その気持ちわかります。しかし、世界で起こっていることを注意深く見ていると、理由がわかってきます。


○増加し続ける石油需要
皆さん、

「クリーンエネルギーの時代がもうすぐ来る!」

なんて考えていませんか?ところが、現実はそう甘くないのです。
私も地球の未来を非常に心配していますからそう願いたい。しかし、実際はそう簡単ではないのです。
石油の需要はこれからも伸びつづけることがわかっています。
米エネルギー省によると、一日あたりの世界石油消費量は、2000年の約7700万バレルから、05年には8500万バレル、10年9400万バレル、15年1億200万バレル、20年1億1000万バレルと増加しつづけていきます。
2000年の時点で石油は世界のエネルギー消費の39%を占めていました。2位は石炭で24%、3位は天然ガス(22%)、4位原子力(6%)とつづきます。
2020年にはどうなるのでしょうか?
なんと37%が石油。20年間で2%しか減らない。減るといっても、もちろん、エネルギー消費全体内の割合が減るだけで、量は前記のように増加しつづけていきます。
2位は天然ガス(29%)になります。3位は石炭で22%。残り12%の中に原子力・水力・風力・太陽エネルギー・燃料電池などが含まれる。
同省の予測では1996~から2020年まで、石油消費量は年平均1.8%づつ増加していく。天然ガスは同期に、年平均3.3%づつ増加、石炭は1.7%、原子力はマイナス0.4%となっています。
一体どうして石油の需要は増えつづけるのでしょうか?
第一の原因は石油が非常に便利なエネルギーだということ。
あまり考えたことありませんが、石油って何に使われているのでしょうか?

発電・暖房・交通エネルギー。

発電や暖房はガス・石炭でもいけますが、交通エネルギーは今のところほぼ石油の独占状態にあります。ガソリン・ディーゼル燃料・ジェット燃料等々、実に交通エネルギーの95%が石油製品。
その他、潤滑油・プラスチック・化学繊維等にも使われています。
このように石油はマルチなエネルギー源ですので、なかなか新エネルギーが普及していかないのです。
この事実をふまえて他の原因を挙げると、人口増加と経済成長。
人口が増えればエネルギー消費が増えるのは理解できますね?

「しかし、日本は05年から人口が減少しているではないですか?」

それは日本の話。世界全体ではまだまだ人口増加がつづいていくのです。
世界の人口は1950年、わずか26億人でした。それが、1999年には60億。50年で倍以上増加しています。
そして現在、世界の人口は年間8000万人のペースで増えつづけている。米商務省によると、06年に世界人口は65億人を突破。同省の予測では、13年に70億人、27年に80億人、45年には90億人を超えます。
国別で見ると、06年時点で、1位中国(13億人)、2位インド(11億人)、3位アメリカ(3億人)、日本は1億2700万人で10位。
50年後にはどうなるかというと、1位インド(16億人)、2位中国(14億人)、3位アメリカ(4億人)。
人口が増えるので石油の消費も増える。

そうはいっても、「人口が増えたから石油の消費が増える」というのは真実の半分。
自然と調和して生きているアマゾンやアフリカの原住民・エスキモーや遊牧民がいくら増えても石油消費は増えないでしょう。
人が豊かになり、ガソリンを使う自動車を買う。電気を使う冷蔵庫・洗濯機・テレビ・エアコン・パソコン等々を買う。これが需要増の最大の原因。
世界総生産(GWP)は、1950年から50年間で、6兆ドルから41兆ドルまで6倍増加しました。

ところで、人類は経済成長をやめるつもりがあるのでしょうか?
まったくないですね。

先進国でもマイナス成長になったら首相の首が飛びます。
石油消費量が特に急増していく見通しなのが、成長著しい中国とインド。

米エネルギー省のデータによると、中国の石油消費量は1999年の日量430万バレルから20年には1040万バレルまでに2.5倍(!)増加。それまで年平均4.3%(!)のスピードで増えつづけていきます。

インドは1999年の日量190万バレルが2020年には580万バレルに3倍化(!)。
年平均の増加率は5.4%(!)。
最後に、この国のことを語らずにはいられません。

アメリカの消費はどうなのでしょうか?

同省によると1999年の日量1950万バレルが2020年には2580万バレルに。2020年の時点でも、世界一の石油消費大国に居座りつづけます。
もっと先の話をしましょう。30年の予測では、中国の消費量は日量1500万バレル。
アメリカは2760万バレル。アメリカの世界需要に占める割合は23%で依然として首位。中国は13%で2位の座をがっちり守っています。
そろそろ皆さん、疑問が出てきたのはないでしょうか?
そんなに需要が増えて、石油は枯渇しないのですか???


○石油がなくなる日
どんなに石油需要が増加しても埋蔵量が無限であれば問題は起こりませんが、果たして無限なのでしょうか?
そんなことないですね。
いつかは枯渇します。いつ枯渇するのでしょうか?
これははっきりわからないのです。なんといっても石油は地下に眠っていて、正確な量などわかりません。
しかし、大体の予想はできます。
石油大手BPのデータによると、世界の石油確認埋蔵量は前世紀末時点で1兆330億バレル。
もちろん未確認埋蔵量もあります。未確認ですから正確な量はわかりません。専門家の意見を聞いても、2000億バレルから9000億バレルとバラつきがある。
まあいずれにしろ、2040年からおそくても60年までに石油は枯渇するというのが多くの専門家の意見です。
量が少なくなれば獲得競争が激しくなるに決まっています。
もちろん代替エネルギーにシフトするのがベストですが、既にお話したように今のところ期待できません。
もっと決定的なお話をしましょう。アメリカの確認埋蔵量は約300億バレル。現在のテンポで生産を続けていった場合、BPの予測では11年後に同国の石油は枯渇する。
どうすればいいのでしょうか?
わかりますね。
他の国からもってくればいい。


○中東産油国の存在感
アメリカというのは実は石油大国です。
生産量も毎年、サウジアラビア・ロシアとトップを争っている。ところが、圧倒的に消費量が多いため、輸入量が増加しつづけているのです。
アメリカの輸入量は1950年、日量約32万バレルでした。それが1970年には10倍化し、76年には700万バレルを突破。2000年からは日量1000万バレルを超えています。同国の石油輸入量は全世界の原油生産量の約8分の1(!)。
輸入依存度ですが、1960年代はまだ20%程度でした。アメリカ政府の予測だと同国の輸入依存度は2025年、65%~70%に増加します。なんといっても、自国の石油が枯渇しつつあるのですから、当然といえば当然。

「一体どこから持ってくればいいのだろう?」

政府は頭を悩ましている。実をいうと選択肢はそう多くありません。
石油に恵まれた地域は、中東・カスピ海中央アジアコーカサス)・ロシア・南シナ海等。
しかし、中東の存在感は他を圧倒しています。
サウジアラビアの確認埋蔵量は2000年時点で2635億バレル。世界総埋蔵量の25%(!)。これはアメリカ・カナダ・南米・欧州・旧ソ連諸国の合計を上回るとてつもない量なのです。
アメリカがどうして、政教一致の絶対君主=独裁者を保護しているのかわかりますね。「中東民主化!」というスローガンは都合のいい時にだけ使うキレイ事にすぎません。
BPのデータによると、イラクは1125億バレルで世界2位。約11%を占めています。
先に、「フセインが原油の決済通貨をユーロにかえたことが、イラク攻撃の真因」という話をしました。
しかし、石油が枯渇しつつあるアメリカ。
決済通貨をユーロからドルに戻すと同時に、膨大な石油利権を独占するのも悪くないでしょう。事実、アメリカはフセイン時代イラクの石油利権に入りこんでいたフランス・中国・ロシアを追い出し、利権を独占しています。
3位は978億バレルのアラブ首長国連邦(9.4%)、4位はクウェート(965億バレル・9.3%)。
5位はイラン(897億バレル・8.7%)。
ここで賢い皆さんは考えてしまったでしょう?

「アメリカが核保有を宣言しテポドンをぶっ放す北朝鮮にやさしく、核のないイランに厳しいのはもしかして――」

そう考えるのが自然です。
その他、バーレーンオマーンカタール・イエメンなどにも石油があります。
9カ国は現在、総産油量の約30%を占めている。
埋蔵量は合計6730億バレルで、なんと全世界の65%(!!!)。
これはどういうことかというと、

「中東石油が世界の石油消費に占める割合はこれから増えつづけていく」

ということ。
1999年、世界の石油消費に占める中東石油の割合は27%でした。これが2010年には33%、2020年には39%と増加していく。
物がありあまっていて買い手が少ないとき。これは買い手市場で安く叩けます。
しかし物が少なく、買い手が多いとき。これは売り手市場でどんどん値段が上がっていきますね。
石油は90年代、買い手市場でした。
1998年にはバレル10ドル代で取引されていた。ところが、2000年代になるとグングン値段があがり、08年には140ドルを突破。
その後、経済危機の影響により、一時30ドル台まで大暴落しましたが、すぐに戻し、今はバレル70~80ドル台をウロウロしています(未確認埋蔵量もありますから、いつ枯渇するのかはわかりません。しかし、需要が長期的に伸びつづけ、供給が先細りという傾向であることは間違いありません。より重要なことは、

「実際どうなるか?」

ではなく、

「アメリカ政府がどのように考えているか?」

ということ。未来に備える外交は、事実ではなく予測に基づいて決定するしかないのですから)。


○アメリカは中東への軍事介入を恐れない
世界は中東石油への依存度を強めていく。
これってアメリカにとってはどうなのでしょうか?
アメリカは石油大国のサウジアラビアクウェートアラブ首長国連邦などと比較的良好な関係を築いています。しかし、イランのような反米国家もある。そして、中東イスラムの民衆は皆超反米。世界埋蔵量の四分の一を占める親米サウジで革命が起こった日にゃあ。
先にイラクの例を挙げましたが、アメリカが今後、「資源の宝庫」中東を抑えるために武力を使う可能性はあるのでしょうか?
あり得る話です。非常に。
実をいうと、アメリカにとって中東への軍事介入は決意が必要なできごとではないのです。
少し歴史を振り返ってみましょう。

石油需要が激増したのは20世紀初頭のこと。それ以前も石油は使われていましたが、主に灯火用でした。
ところが1912年、イギリス軍が軍艦のエネルギーを石炭から重油に変更。これ以降、石油は戦争や交通にかかせないエネルギーになります。
アメリカは当時世界最大の産油国。中東にはそれほど関心を持っていませんでした。
しかし、第2次大戦の終結と冷戦のはじまりによって、政策の転換を迫られることになります。つまり、ライバルソ連が中東産油国を支配下に置くことを恐れたのです。
アメリカはトルーマン・ドクトリン(1947年)でも、アイゼンハワー・ドクトリン(1957年)でも、中東の全ての国に対し、ソ連あるいはソ連の同盟国から攻撃された場合、米軍が支援することを約束していました。
そうはいっても、アメリカがすぐ中東を真剣に支配しようとしていたわけではありません。この地域は伝統的にイギリスの影響圏にあったのです。
本腰を入れ出したのは、1968年にイギリスのウィルソン首相が、「1971年末までにイギリス軍を中東から撤退させる」と発表した後。
当時国家安全保障会議の議長だったキッシンジャーニクソン大統領に中東への関与を強めるよう進言します。
ところが問題があった。当時アメリカはベトナム戦争の真っ最中で、中東まで手が回らなかったのです。そこで、アメリカ政府はイギリス撤退後の中東で共産勢力が拡大しないよう、地域の大国(具体的にはサウジとイラン)を支援することにしました。
アメリカがさらに中東の重要性を認識するきっかけになったのが、1973~74年のオイルショック
1973年、第四次中東戦争が勃発。アラブ諸国イスラエルの肩を持つアメリカへの原油輸出停止と、他諸国への輸出制限を決めます。
オイルショックは世界経済に大打撃を与え、アメリカ政府も中東政策を変更せざるを得なくなります。
1975年、国務長官になっていたキッシンジャーは、

「(産油国の行動が)なんらかの形で先進工業世界の首を絞める事態が起これば、アメリカ政府は躊躇なく武力を行使する」

と断言。
1979年、イラン国王がイスラム原理主義勢力に打倒されるイラン革命が起こりました。世界は第二次オイルショックに直面します。
1980年、普段は温和なカーター大統領が強気の発言。
曰く

ペルシャ湾の支配権を握ろうとする外部勢力の試みは、いかなるものであれ、アメリカ合衆国の死活的国益に対する攻撃と見なされ、必要ならば武力行使を含むあらゆる手段によって排除される。」

そうなんです。アメリカは大昔から、もしアメリカ以外の勢力が中東を支配しようとすれば武力を使うと宣言している。
さて、中東ではその後何が起こったのでしょうか?
1980~88年のイラン・イラク戦争でアメリカはサダム・フセインを支援。
ところが1990年8月、フセインクウェートに侵攻したので、ブッシュパパはイラクとの戦争に踏み切り、もちろん勝利します。
アメリカは湾岸戦争後も必要ならば武力を使うという意志を示し続けてきました。
1995年、ジョセフ・ナイ国防次官補は

「同地域(中東)におけるアメリカの死活的に重要な国益を守る態勢は維持しつづける。必要ならば単独でも」

と語っています。
意味するところは、アメリカは中東における利権を守るためにいつでも単独武力行使に踏み切る準備があるということ。
そして、ジョセフ・ナイの言葉は実行に移されています。アメリカは1998年12月にイラクに対して空爆を実施。
99年8月までの9ヶ月間で攻撃目標359ヶ所に1100発のミサイルを撃ち込みました。空爆はその後も03年にイラク戦争がひと段落するまで繰り返し行われています。
このように、アメリカが必要に応じて中東で武力行使することは既定の方針。これからもそうするに違いありません。


○中東支配をめぐる米中の争い
もう一つの脅威。
中東産油国は現在、徐々に輸出相手を多角化しています。つまり、

「アメリカさん、あなたが買ってくれなくても全然困りませんよ」

という状況になりつつあるのです。
例えば中国の中東原油輸入量は2000年から2020年までに10倍増加し、日量530万バレルになることが予想されます。
どうでしょう?
石油消費量1位アメリカと2位中国はペルシャ湾を抑えなくて、どうやって経済成長をつづけるのでしょうか?
この地域がどうしても必要ということであれば、両国の間に紛争が起こる可能性も否定できません。
皆さんここで、ちょっと考えてみてください。これはファンタジーでしょうか?それとも起こり得る現実的な悪夢でしょうか?

「もし、中国の一人当たりのエネルギー消費量が日本並みになれば、中国一国だけで世界のエネルギーの70%を必要とするようになるだろう。
また、もし中国のエネルギー消費量がアメリカ並になれば、この国は世界の生産能力を超える石油を必要とするようになる。これは当然、中国との紛争の元である。
もちろん、石油を必要とするのは主に国内消費のためだろうが、中国がアメリカとの紛争は必至と考えても不思議ではないし、それに備えていると思われる。中国はたえず、産油国との関係改善を図っている。そしてそのほとんどは、いわゆる「ならず者国家」である。」
(2002年6月20日、フランク・ギャフニー元国防総省副長官)


○米中の未来
現在の世界を見ると、覇権国家はアメリカ、そして次期覇権国家候補は中国しかいません。
80年代は、

「日本が次の覇権国家に」

などと普通に考えていませんでしたか。そういう論調はあちこちで見られました。
バブル崩壊後も

「21世紀は日本の時代だ!」

などという人もいました。
そういいたい気持ちもわかります。私も祖国日本を愛していますから、そういう希望的な言葉をいいたい。
しかし、予測・分析する立場としては、真実を語らざるを得ません。日本は覇権国家になれないのです。

なぜか?

「覇権」という言葉を辞書で見ると、「支配権」とあります。
経済辞典を見ると、

「大国が権力によって他国を支配すること」

とあります。覇権国家というとわけがわかりませんが、要するに

「世界を支配している国」

ということ。

共産陣営の覇権国家ソ連でした。クレムリンが「ああしろ、こうしろ」と全世界の書記長に指令を出していた。
アメリカは民主主義国家ですから共産陣営と比べるとゆるい支配ですが、いろいろと内政干渉してきますね。
日本が戦後アメリカに逆らったことは数えるくらいしかありません。

田中角栄がアラブや中国と独自外交をしたとき。

細川さんがアメリカに行き、クリントンの要求に全部「NO」といったとき。

橋本さんが、「あんまり理不尽な要求すると、米
国債を売りたくなるんだよね」とアメリカを脅迫したとき。

こういう例外もありますが、日本の首相は、概してアメリカ幕府の将軍のいうがままに右往左往してきました。
欧州は天領の日本と違い、譜代大名ですから多少の自由はありますが。
アメリカのイラク攻撃について、どの国も理不尽だと思ったはずです。
しかし、実際に最後まで反対したのはドイツとフランスだけでした。もちろんアメリカの覇権外にいる中ロは最後まで抵抗しました。

覇権は支配権。
そして、支配権の源泉とはなんでしょうか?
嫌われそうですが、正直にいえば金と力です。
普通の言葉でいえば経済力と軍事力。

「え~、徳や品格は必要ないのですか?」

国家の品格』(藤原正彦著)を読んで感動した、多くの日本人はこんな風に聞きたくなるでしょう。私も、品格ある世界であったらいいなとは思います。
徳や品格はあった方がいいですが、覇権国家の絶対条件ではありません。

インカ帝国の現地人を大虐殺し、滅ぼし奴隷化したスペインに徳はありましたか?

麻薬(アヘン)を売りたいがために中国に戦争をしかけたイギリスに徳はありましたか?

スターリンソ連に品格はありましたか?

今のアメリカに徳や品格がありますか?

まったくないですね。

日本は、経済力で世界3位。しかし軍事力を見ると核もありませんし、軍事費はアメリカの十分の一。
中国は国内総生産GDP)で世界2位。軍事費も世界2位。
ただし、アメリカが覇権を「ハイどうぞ!」と譲るかという問題はあります。


○人類歴史は覇権争奪戦
ニーチェ

「人間の本質は権力への意志である」

といいました。
まあ、そうでない人もいると思いますが、そういう人も多いです。
例えば、会社に入れば出世競争に励む。目指すは会社の社長です。
起業すれば業界内の順位を徐々に上げていき、できれば一位になりたい。

国家も同じ。
まずは地域で一番になりたいし、その後は覇権国家を目指したい。
「なぜそうなのですか?」と聞かれても答えようがありません。登山家が頂上へひたすら急ぐように、国家は覇権の拡大を目指していく。
人類の歴史を見ると、常に覇権争いが起こってきました。絶え間ない戦争の歴史。
どんな争いがあったのか、超簡単に振り返ってみましょう。


ポルトガル対スペイン
16世紀、ポルトガルとスペインが熾烈な植民地獲得競争を繰り広げていました。両国は世界各地で戦っていた。
それでローマ法王が調停に入ります。

「スペインは新大陸(南北アメリカ)を治めなさい。ポルトガルはアジアを治めなさい。ア~~~メン」

それで両国が納得したというのもすごいですね。
ポルトガルは東洋貿易を独占、中国や日本とも通商を開始しました。首都リスボンは世界商業の中心になります。
この頃、スペインは新大陸に進出。アズデク・インカ帝国を滅ぼし、16世紀末までに中南米のほとんどを支配下に置きました。
ここには大量の金銀があった。スペイン人は現地人を奴隷化し、採掘にあたらせました。そして、次第にポルトガルを圧倒する力をつけていったのです。


○スペイン対オランダ・イギリス
しかし、スペインの栄光も長くはつづきませんでした。毛織物業の中心地だったネーデルランドが独立戦争を起こしたのです。ネーデルランド(オランダ)は1581年に独立。
またスペインは1588年、イギリスとの戦争にも敗れ、没落していきました。


○オランダ対イギリス
覇権争いは絶えることがありません。1602年、オランダは東インド会社を設立。世界に進出し、各地でポルトガル・スペインと戦争を行い、勝利します。17世紀初め、アムステルダムは世界経済の中心になっていました。
一方、イギリスは1600年に東インド会社を設立。オランダと競争を開始します。ところが、まだ力不足で各地でオランダに敗退。東はインド、新大陸は主にアメリカを活動の拠点にしました。
世界各地で小競り合いを繰り返すオランダとイギリス。結局本国同士の戦争に発展します。

三次にわたる英蘭戦争(1652年・1665年・1672年)にイギリスは勝利。オランダは没落。以後復活することはありませんでした。


○イギリス対フランス
オランダを蹴落としたイギリス。しかし、休む間もなく、今度はフランスとの争いが激化していきます。
フランスはイギリスが既に入っている場所に、遅れて進出していった。例えば、北米・インド・西インド諸島・アフリカ等々。
イギリスは1702~1713年のアン女王戦争、1744~1748年のジョージ王戦争、1754~1763年のフレンチ‐インディアン戦争に勝利し、フランスを北米大陸から駆逐します。
また、イギリスはインドの支配権を決めるプラッシーの戦い(1757年)にも勝利しました。
こうして、イギリスの世界覇権は決定的になったのです。
その後、1776年のアメリカ独立、18世紀末から19世紀初めのフランス・ナポレオンの活躍などで一時苦境に陥ることはありましたが、イギリスの覇権は揺るぐことがありませんでした。


○イギリス対ドイツ
鉄血宰相ビスマルクが有名なプロシアは1871年周辺諸国を統一し、ドイツ帝国を成立させました。
ドイツはあれよあれよというまに成長を遂げ、欧州の強国になります。
1914年に起こった第一次世界大戦。主役はイギリスとドイツでした。
ドイツは敗退しましたが、ヒトラーの登場で復活。彼は世界恐慌を克服し、ドイツをあっという間に世界第二の経済大国にしてしまいました。
そして第二次世界大戦

ヒトラーの計画は、
1、ドイツで権力を握る。
2、中央ヨーロッパの最強国になる。
3、ソ連を打倒し、無尽蔵の資源を確保。次いでフランス・イタリアを衛星国にする。
4、アフリカに大植民地を獲得。ドイツはアメリカ・イギリス・日本と並ぶ世界の四大強国になる。
5、アメリカとの覇権戦争に勝利し、世界を統治する。

まあ、こういう誇大妄想な話は抜きにしても、ドイツの主な敵はイギリスでした。次の主役になるアメリカとソ連が参戦したのは、第二次大戦勃発から2年後の1941年。
結果、イギリスは勝利し、ドイツは敗北。
しかし、長期的に見ると第二次大戦は欧州全体を没落させる結果になりました。
そして、時代は米ソ「冷戦時代」に移行していったのです。

このように、歴史は延々とつづく「覇権争い」であることがご理解いただけるでしょう。
そして、覇権国家候補は常に戦争によってケリをつけています。
もちろん自ら自己の権力を否定し、支配権を手放すパターンもないわけではありません。
例えば大政を奉還し、自ら幕府をぶっつぶした最後の将軍・徳川慶喜。冷戦に自ら幕をおろしたソ連ゴルバチョフ(しかし、米ソの代理戦争は世界中で行われていましたが)。

一言でいうとこうなります。
覇権国家候補は戦争によって決着をつける場合がほとんどだが、例外もある。

逆の言い方をすれば、例外もあるが、覇権国家候補は戦争により決着をつける場合がほとんど。
そういえば中国は1989年から現在にいたるまで、20年間も軍事費を毎年二桁増加させています。
一体なんのために?
そういえば、アメリカの年間軍事費は、約60兆円。これは世界総軍事費の約半分。一体なんのために?
まさか、爆弾テロと戦うためではないでしょう。アフガン・イラクのことを考慮してもあまりに多すぎませんか?
歴史を見ると、米中が戦う可能性はとても高い。そして、両国はその日に備えて軍備を増強しているのです。


○アメリカの戦略を考える
ここまで長々とアメリカが抱える問題についてお話してきました。覇権国家・アメリカが現在直面している問題は三つ。

すなわち、
1、双子の赤字
2、石油が枯渇すること
3、中国の台頭

皆さんも会社などで戦略を立てますね。
その第一歩はなんでしょうか?
そう、目標を立てることです。
覇権国家・アメリカの目標はなんでしょうか?
業界1位の会社が立てる目標はなんでしょうか?
そう、業界1位にいすわりつづけることです。その後、「いすわりつづけるためにはどうするか?」という話がでてきます。
同じように経済力・軍事力で世界一のアメリカの目標は、

覇権国家にいすわりつづけること」

となります。
これはもう必然的な結論です。これ以外の目標があり得るでしょうか?

アメリカの目標は「覇権国家でいつづけること」である。

次のステップは現状を理解することです。
現状はすでに見てきました。
アメリカは三つの問題(双子の赤字、石油・ガス、中国)を抱えている。

双子の赤字はドルが基軸通貨であるかぎり大丈夫という話でした。ではアメリカはどうするか?
そう、ドル基軸通貨体制を守る。

次。石油の65%は中東に眠っているという話でした。ではどうするか?
そう、中東を支配する。
これは必ずしも武力を使って支配しなくてもいいのです。
例えば、アメリカはリビアカダフィ大佐を脅迫し、服従させることに成功しています。
サウジアラビアクウェートアラブ首長国連邦などにも武力を使っていません。要は、アメリカに石油をドルで売ってくれれば問題ない。
その他に、カスピ海中央アジアコーカサス)・ロシアにも膨大な量の石油・ガスが眠っていますから、ここも支配したい。

最後に、中国がアメリカの覇権を脅かす存在になりつつある。ではどうするか?
中国を民主化し、傀儡政権を立て、ドル圏離脱を許さない。

以上三つは、アメリカが抱えている問題の解決策として必然的に出てくる解答です。
もちろん、中東・欧州(の反米勢力)・中国・ロシア等が反対してくるでしょうから、状況に応じて計画が変更されることもあります。
しかし、理想的図はこうなる。
アメリカは、ドル体制に反抗してくる国々(例えばイラク)を「民主化」の名目でぶちのめし、世界の石油・ガスを支配し、中国を民主化し、ドル圏にとどめる。
世界には独立国家が多々あるものの、どの国もドルを使っている。アメリカ政府は世界通貨発行権と圧倒的軍事力を持ち、世界を統治している。


イラク戦争再考
アメリカの内情が全部わかったところで、イラク戦争のことを振り返ってみましょう。
全く違った絵が見えてくるはずです。
皆さんもご存知のように、アメリカが挙げたイラク戦争の理由はことごとくインチキであることがわかっています。
ブッシュは当初「フセインアルカイダを支持している」と主張していました。ところが、全世界の専門家や研究者は「フセインアルカイダが大嫌いですよ!」と知っている。
次にアメリカは「イラク大量破壊兵器を保有している」と主張。
フセインは、無実を証明するために国連の査察団を入れて調査させています。そして、結論は「イラク大量破壊兵器は存在しない」でした。
しかし、ブッシュは03年3月「48時間以外に大量破壊兵器を出せ!出さないと攻撃するぞ!」と脅迫しました。
フセインは困ってしまいます。ないものはどうやっても出せません。
アメリカはない大量破壊兵器をあると主張しながらイラク攻撃を開始しました。
アナン国連事務総長も「アメリカのイラク攻撃は国際法違反だ!」と断言しています(しかし、アメリカに対しては何もできないところに国連の限界を感じます)。
戦争がひと段落したあと反省期に入ってアメリカが困るのは、「ところで、どうしてイラクを攻めたのですか?」と聞かれること。
アメリカ政府は現在、「独裁者を倒し、中東を民主化するため」といっています。しかし、初めに書いたように少し賢い人なら、「サウジアラビアも独裁じゃないですか?」「核兵器を保有しミサイルをぶっ放す独裁国家北朝鮮はどうなんですか?」と聞きかえすでしょう。
イラク攻撃というのは、それほど普通の人にはわけのわからない矛盾に満ちた戦争だったのです。
ところが。
皆さんがここまで得てきた知識をもって再考すれば、イラク攻撃はアメリカの国益に何重にもかなっていることが理解できるでしょう。

イラク攻撃の理由。

1、ドル体制の防衛
既述のように、フセインは2000年の9月「石油の決済通貨をドルからユーロにかえる」と宣言しています。そして11月、本当にかえてしまいました。
アメリカはイラク戦争後、決済通貨をユーロからドルに戻しています。

2、石油利権の独占
石油枯渇が目前に迫っているアメリカ。原油埋蔵量世界2位イラクの石油利権を独占することは超重要課題です。
しかもフセインは当時、ロシアのルクオイル・中国CNPC・フランスTotal Fina Elfなどと契約を結んだり、覚書を交わしていた。
これらが国連常任理事国の企業であるのは偶然ではありません。フセイン常任理事国に利権を与えることで、アメリカの攻撃を止めてもらおうと思っていたのです。
アメリカがイラク攻撃後、三国を追い出して利権を独占したことは既に触れました。

3、中国封じ込め
中東を支配する理由は覇権国家候補・中国を封じ込める意図もあります。中国の経済成長は石油なしには成り立たないのですから。
アメリカと中国は同様の理由で、中央アジア・ロシアで争いを繰り広げていますが、それは後ほど。

このように、アメリカのイラク攻撃は「アルカイダ」「大量破壊兵器」「民主化」といったキレイゴトを忘れてみれば、とても理にかなった戦争でした。
今までは長期戦略の観点から話しましたが、まだ終わりではありません。
短期的理由もあるのです。

ITバブル崩壊後、リセッションに陥っていた経済を活性化させること。
クリントン時代は日本のバブル期以上の超好景気時代。ところが、ITバブルも2000年には終わってしまいます。ブッシュは非常に厳しいときに大統領になりました。
しかし、彼は見事にこのピンチを乗り切りました。
どうやったか?
01年にはアフガンを、03年にはイラクを攻撃した。

効果は、
・在庫を一掃し軍事産業を活性化させる。
・石油利権を独占する。
・復興利権を独占する。

二つの戦争は公共事業として非常に有効で、アメリカの景気が持ち直したのは皆さんもご存知のとおり。
日本はバブル崩壊後10年の暗黒時代に突入しましたが、賢いアメリカ政府は戦争により悲惨な状況を回避したのです。
ここまでイラク戦争の長期・短期の利益を見てきましたが、ブッシュ支持基盤の利益もありました。
ブッシュの支持基盤といえば、石油業界・軍産複合体キリスト教右派イスラエル
石油業界・軍産複合体は儲かるし、キリスト教右派は異教徒イスラムがぶちのめされて満足。イスラエルは宿敵フセインが倒されて満足。
このように、アメリカの真意を知って見れば、これはパーフェクトな戦争だったことがわかるでしょう。
ここまで、アメリカの現状・問題・戦略を詳しく見てきました。
キーワードは「ドル基軸通貨体制の防衛」「石油・ガス」「中国」です。


◇第3章
○米ロ新冷戦
既述のように、「アメリカ倒幕」の狼煙をあげたのは欧州でした。
ユーロをつくり、ドル体制に穴を開けた。
フセインは欧州に利用され、アメリカに殺されたのです。
しかし、フセインを殺してもアメリカの勝利は確定しませんでした。
なんと、プーチンのロシアが欧州の側について参戦してきたのです。
この章では、「なぜロシアが倒幕戦に加わることになったのか?」を明らかにしていきます。


○ロシアの実力と限界
没落した超大国・ロシアの存在感が再び増しています。
この国の状況を簡単にいうと

エリツィン時代は超不況、プーチン時代は大好況」(メドベージェフの時代になり、世界的不況に突入)。

ロシアはなぜ復活してきたのでしょうか?
もっとも重要なファクターだけあげれば、石油価格が高騰したこと。
エネルギー部門はロシアの鉱工業生産の約30%、連邦歳入の40%、輸出の50%以上を占めている。
既述のように、原油価格は金融危機が起こった1998年、1バレル10ドル以下まで下がりました。それが今では70~80ドル台で誰も驚きません。
簡単にいえば、ロシア経済は石油に依存しているのです。
では、ロシアはどこまで成長するのでしょうか?超大国に返り咲くことはあるのでしょうか?
これは、いくつかの要因で「あり得ない」というのが私の結論です。その根拠を挙げます。

1、覇権国家は一度没落すると返り咲かない
ライフサイクルを見ると面白いのですが、「一度覇権を取った国は没落後その地位に返り咲かない」という事実があります。
これはここ数百年の覇権国家とその対抗馬だった国、ポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス、フランス、ドイツ等のその後を見れば明らかでしょう。
ロシアはソ連時代、14共和国を直接統治し、東欧を間接支配。さらに、その影響圏は、アジア(中国、北朝鮮ベトナムラオスカンボジア等)、中南米、アフリカまで、実に世界の3分の1におよんでいました。
これは、ライフサイクルでいえば立派な真夏。共産陣営の覇権国家。ですから、歴史的にロシアはピークを過ぎていると見るのです。
03年10月に米証券大手ゴールドマン・サックスが発表した「BRICSレポート」によると、2050年の時点で世界のGDPは、1位中国、2位アメリカ、3位インド、4位日本、5位ブラジル。ロシアは6位となっています。
私も、「ロシアはだいたいこんな感じだろう」と予想しています。

2、人口問題
ロシアがピークを過ぎている証拠の一つに、人口が急速に減少しているという事実があります。
人口は普通、医学が発展していないところでは、一定に保たれています。アマゾン原住民の部族などでは、弱い子供がどんどん天国にいくので、何千年も人口爆発が起こらない。
その後、医学の発達(あるいは他国から最新医学が導入される)により、高い出生率のまま死亡率が下がり、人口が急増します。
やがて、経済成長と共に出生率は低下し、少子化が進んでいく。
成熟期・衰退期の国では、移民により人口が増加しているアメリカなど以外は、欧州でも日本でも人口の伸びが止まっています。
ではロシアはどうなのでしょうか?
この国の人口は現在、「年間70万人減少している」(!)のです。大都市が毎年一つ消滅している計算ですね。
ロシアの人口は経済が急成長をつづけ、アメリカの覇権を脅かしていた1950年代から80年代まで増加しつづけていました。
しかし、ソ連崩壊直後の1992年に1億4870万人でピークに達し、05年には1億4320万人まで減少しています。今後同国の人口減少のスピードはさらに加速し、2050年には1億1180万人になると予測されています。
人口が減少すれば、当然GDPの伸びは鈍化する。これは日本も同じ。
ですから、ロシアが今後、9倍の人口を抱える中国や、7倍のインドと覇権を争うといったことはあり得ません。

3、賃金上昇のスピード
人口が少ないということは、賃金上昇のスピードが速いことを意味します。
ロシアの賃金水準は既に中国・インド比で断然高く、外国企業にとって両国以上に魅力的になることはない。また、賃金水準が高いので製造原価が高くなる。つまり、割高のロシア製品は中国製品に勝てない。ロシアの製造業が今後、中国のような発展を見せることはないでしょう。
ロシアはトヨタ・日産などが工場建設を決め注目されています。
これは、オイルマネーが回りまわって国民の懐を暖かくしていた。そして「イージーマネー」は使うのも早い。ロシア人の消費意欲は日本人から見るとクレイジー。
ロシアは市場としての魅力は十分ありますが、世界の工場になるような可能性はないでしょう。
しかし、2050年にGDP世界6位ということは、この国は今後も成長をつづけ、多極世界の一極になる力は十分あるということを強調しておきます。


○アメリカから見たロシア
アメリカにとってロシアは今どんな位置にいるのか、基本を抑えておきましょう。
アメリカ世界戦略のキーワードは「ドル基軸通貨体制の防衛」「石油・ガス」「中国」でした。
この全てのキーワードで、ロシアは非常に重要です。
ドル体制については後ほどお話します。

第1に、ロシアは世界有数の石油・ガス大国である。これをアメリカは抑えたい。

第2に、ロシアの旧植民地、いわゆる旧ソ連諸国、具体的にはコーカサス地方中央アジアにも莫大な量の石油・ガスが眠っている。アメリカはここを抑えたい。
ロシアはコーカサス中央アジア旧ソ連諸国を自国の影響圏と考えていますから、当然争いが起こります。

第3に中国とのからみ。
アメリカが覇権を維持するために中東を抑える。もし中国が逆らった場合は、中東→中国の石油の流れをカットする。
しかし、中国にはロシアと中央アジアから石油を買うという方法が残されています。
アメリカはロシア→中国、中央アジア→中国の石油の流れをカットしたい。

ここまでが基本。


○ロシアの石油・ガス
理解を深めるために、ロシアにはどれくらい資源があるのかというお話をします。
地下にある石油の埋蔵量は正確な数字がよくわからず、機関によってデータもバラバラ。英BPのデータでは、1~5位までを全て中東の国々が占めている。
しかし、問題はアメリカ政府がロシアの資源についてどのように考えているかということですね。
アメリカ地質調査所(USGS)の2000年データによると、ロシアの石油埋蔵量は1295億バレルで、サウジアラビアに次いで世界2位。
日本の石油鉱業連盟の02年データでも、1273億バレルで世界2位。これは世界埋蔵量の14%(!)。
数年後に石油が枯渇するアメリカとしては、なんとしても抑えたい国であることがおわかりでしょう。

もっとすごいのが天然ガス。「石油に代わるのは、燃料電池ではなく天然ガス」というお話しをすでにしました。
ロシアはどうなのでしょうか?
石油鉱業連盟の02年データによると、ロシア一国の天然ガス埋蔵量は全世界の27%を占めダントツ世界一(!!!)。ちなみに2位はイランで約13%。ロシアは2位を倍以上引き離している。

どうですか?
もし、皆さんがアメリカ合衆国の大統領だったとしたら。
原油埋蔵量世界2位、天然ガス埋蔵量1位のこの国を放っておけるでしょうか?


カスピ海諸国の石油・ガス
カスピ海諸国というと、イラン以外は全部旧ソ連コーカサス中央アジアを含みます。そして、この地域にも石油・ガスが眠っている。
正確な量はいつものようによくわかりません。
1997年4月、アメリカ国務省は「カスピ海の石油埋蔵量は1780億バレルにおよぶ可能性がある」と発表しました。
USGSは97年11月、1140億バレル、2000年には700億バレルと発表しています。
米エネルギー省は2000年6月、この地域の埋蔵量は2350億バレルに達する可能性があるとしています。予測が正しければ、この地域に世界の石油の20%が眠っていることになる。

まあ、いずれにしてもいろいろな数字があって、はっきりわかりません。
しかし、大切なのは実際にどのくらい埋蔵量があるのかではなく、「アメリカ政府がこの地域をどのようにとらえているか」ということ。
量がたっぷりあることもそうですが、カスピ海地域の魅力はまだ開発が進んでいないこと。
1997年の時点で、同地域の原油生産量は日量110万バレルでした。それが2010年には400万バレル、20年には600万バレルと増加していくと予想されています。
中東を除く地域では今後生産量が減少していく見通しですから、カスピ海地域はアメリカにとって非常に重要なのです。

この地域は大きく中央アジアコーカサスの二つにわけられます。
中央アジア最大の資源国はカザフスタン
問題はカザフスタンと中国が国境を接していて、簡単に石油を輸出できることです。これはアメリカの戦略の妨げになります。
そして、コーカサスの石油大国はアゼルバイジャン
アゼルバイジャンの石油は、同国とロシアの黒海沿岸都市ノボロシースクを結ぶパイプラインを通して世界市場に供給されていました。しかし、アメリカの強い働きかけにより、「ロシアはずし」が実現しています。
いずれにしても、アメリカにとってロシア・カスピ海地域は世界戦略を進める上で非常に重要。このことだけ、知っておいてください。


○ロシアから見たアメリカ
私はモスクワに20年住んでいます。それで、ロシアの政治家・学者・ジャーナリストおよび一般人と接する機会が非常に多くあります。
この国のエリートから一般人まで、共通しているのは反米意識。
なぜか?

まず国民の大部分は共産ソ連時代、徹底的に反米教育を受けている。ですから、ソ連崩壊後に成人した若年層の反米意識はそれほど強くなく、年配になるほど強くなる傾向があります。

もう一つは、ロシアが冷戦でアメリカに敗北したという事実。
ロシア人エリートはよく日本人にいいます。

「我々が日本人の気持ちで、最もわからないのは何か知ってるかい?」

日本人「わかりません」

「アメリカは日本に原爆を落として、何十万人も虐殺しただろう?それなのに、日本人の大部分はアメリカをうらんでいないどころか愛している。これが我々には絶対理解できない」

これが普通の国なのですね。
中国人や韓国人は終戦後60年すぎても、いまだに戦時中のことをネチネチいうのでうざったい。こんな風に感じている人もいるでしょう。
しかし、これは日本人の「水に流す」精神が特殊なのであって、恨みをもつほうが普通でしょう。
というわけで、冷戦に敗北したロシアは戦勝国アメリカに恨みを持っている。

それだけではありません。
これはエリート層に多いのですが、

「アメリカが意図的にソ連崩壊後のロシア経済を壊滅させた」

と恨む人もいる。
どうしてかというと、1991年12月にソ連が崩壊した。新生ロシア初代大統領エリツィンは経済音痴だった。共産主義国で育った人は資本主義経済がわかりません。
そこで、アメリカ政府は国際通貨基金IMF)を通し、ロシアのガイダル首相代行やチュバイス副首相といった改革派に「改革方法」を伝授したのです。

その内容は、
1、政府による経済管理の廃止
2、大規模な民営化
3、価格の全面自由化

ガイダル・チュバイスはIMFの勧告どおり、忠実に改革を実行しました。
で、どうなったか?
改革初年度(1992年)の国内総生産GDP)成長率はマイナス14.5%(!!!)。インフレ率は2610%(!!!)。
少し考えればどういう結果を生むかわかることです。
ロシアは物不足。ソ連時代末期、おじいちゃんおばあちゃんがお店で行列に並んでいる姿がテレビにも出ていました。
物が足りないのに価格を自由化したら、ハイパーインフレになる。国家が崩壊してルーブルが大暴落しているのに貿易を自由化したら、これもハイパーインフレになる。
単純な理屈です。

ガイダル・チュバイスは無知だったのか、それともアメリカに買収されてわざととんでもない改革をしたのかはっきりはわかりません。何はともあれ、ロシア人の大部分は彼らを憎悪しています。
それと同時に、特に高い地位にいた人たちは

「バカなエリツィンがずる賢いアメリカ政府にはめられた」

と信じている。そして恨みを持っている。

さらに、最近の話になりますが、アメリカは旧ソ連諸国(ロシアの旧植民地)でカラー革命を起こしている。詳しくは後ほど。

このように、ロシアはアメリカを相当恨んでいます。
ですから、プーチン大統領(当時)はことあるごとに、

「ロシアが目指すのは多極世界を作ることだ!」

と語っていたのです。
「多極世界を作る」というと美しいですが、別の言葉にすれば、

「アメリカ一極支配をぶち壊す」

となる。


○ロシアから見た中国
ロシアの敵No.1はアメリカですが、この国にはもう一国仮想敵がいます。
それが中国。
ロシア人エリートのアメリカ観・中国観を一言でいうと、

「アメリカを憎み、中国を恐れる」

となります。

まず感情的な面をあげれば、中国の成功に対する嫉妬がある。
共産主義時代、ソ連は中国に対し、ずっと兄貴面をしていることができました。
世界中の人々が、

ソ連は経済的にも軍事的にも、アメリカに次いで世界2位だ」

と思っていた。しかもアメリカがボロボロだった70年代は、

「いや、軍事的にはひょっとしてソ連が世界一なのでは?」

などという声も聞こえてきた。
経済が既にボロボロになっていた1990年代初めですら、ロシアのGDPは中国の4倍。それが今では、ロシアのGDPは中国の4分の1程度になっている。
この事実が誇り高いロシア人のプライドを傷つけているのです。

ロシアのエリートを恐れさせている、より実質的な問題もあります。
それが両国の人口差。
ロシアの人口は1億4300万人で、中国の約9分の1。しかし、東に行くと状況はもっと悲惨になります。
ロシア極東地域の人口はわずか700万人。あの広大な土地に住む人は東京よりもはるかに少ない。
一方、ロシアと国境を接する中国東北三省(黒龍江省吉林省遼寧省)の人口は1億2500万人(!!!)。日本全国に匹敵する人がここに住んでいる。
中ロの差は16倍以上。そして、中国から続々とロシア極東に人が移住してきています。
これはロシアにとって脅威でしょうか?
もちろん脅威です。

さらに、中国は1989年以降現在にいたるまで、軍事費を毎年二桁増加させている。
今はもちろん、アメリカに対抗するための軍拡でしょうが、将来中華思想を持つジャイアントパンダが西にむく可能性も否定できません。これは脅威ですね。

そんなわけで、ロシアにはアメリカと中国という仮想敵がいる。
そして、ロシアにとって理想的な状況はアメリカと中国が戦って共に没落すること。
あたかもイギリスとドイツが戦って没落し、アメリカとソ連に覇権が移行したように。
そんな「漁夫の利構想」を持っているロシア。
しかし、情勢はロシアが中立を維持することを難しくしていったのです。


○米ロ関係の流れ
冷戦終結後の米ロ関係の流れを追ってみましょう。
まず、ソ連崩壊と新生ロシアの経済改革大失敗で、ロシアは借金大国になってしまいました。
普通借金をしている国は、金を貸している国のいうことを聞きます。
というわけで、エリツィンは概して親欧米外交でした。

後を継いだプーチンは当初、中国や「ならず者国家」との関係を重視していました。
しかし、2001年10月にアメリカのアフガニスタン攻撃を圧倒的に支持し、米ロ関係を好転させます。
しかし、02年8月ごろから両国は「イラク問題」で対立。
ロシアはフセイン政権に80億ドルの債権がある。フセインが失脚すれば、お金は返してもらえない。
さらにフセインはアメリカからの攻撃を止めるために、国連安保理常任理事国であるフランス、中国、そしてロシアに石油利権を与えていました。
ロシアについていえば、具体的に、ルクオイル、ストロイトランスガス、タトネフチ、ソユーズネフテガス、ザルベジネフチが、イラクの石油利権に入りこんでいたのです。
フセイン政権が打倒されれば、アメリカは当然石油利権を独占する。
そんなわけで、ロシアはフランス、ドイツ、中国と共に、最後までアメリカのイラク攻撃に反対します。
しかし、米ロ関係はまだ決定的に悪くなっていませんでした。


ユコス問題
米ロ関係が決定的に悪化したのは、03年10月に、ロシア石油最大手ユコスのホドロコフスキー社長が逮捕されたこと。
なんのことかわからないと思いますので、順番に話していきます。

ソ連時代には、当然民間石油会社はありませんでした。油田開発および生産は石油工業省が、天然ガス開発はガス工業省が担当していた。
ソ連崩壊直前の1991年10月、ロシア石油ガス公団(ロスネフチガス)が設立されます。その後、同公団を母体に93年、ルクオイル、ユコス、スルグトネフチガスが作られました。
メナテップ銀行を率いる天才ユダヤ人ビジネスマン・ホドロコフスキーは1995年、ユコスを3億ドル(約330億円)で政府から買取ります。
ホドロコフスキーはビジネスの天才。
2003年7月までに、同社の時価総額は300億ドル(3兆3000億円)まで増加。
わずか8年で100倍化(!!!)させています。
彼の資産は03年時点で80億ドル(8800億円)。ユコスは石油生産量でも時価総額でもロシア一の企業。ホドロコフスキーはロシア一の大金持ち。
「ロシアの若き石油王」「ロシアのロックフェラー」と欧米から賞賛されて当然でした。
ところが、人間というのは金ができると次は名誉が欲しくなるのですね。
ホドロコフスキーはなんと「プーチンの後に大統領になろう!」と野望を持つようになったのです。
戦いの舞台は03年12月の下院選挙と、04年3月の大統領選挙。
ホドロコフスキーは03年4月、反プーチンの野党「右派連合」「ヤブロコ」「共産党」の選挙資金をサポートすると公言。
「右派連合」「ヤブロコ」は市場経済・民主主義・人権といった、いわゆる欧米の価値観を重視している。一方、「共産党」は当時下院最大勢力で、反市場経済・反欧米。
この全く異なる政党を結びつけているのは、「反プーチン」というスローガンのみ。
要するにホドロコフスキーは、「反プーチンの勢力には、思想に関係なくどんどん金をあげますよ」といっている。
プーチンはムカつきますね。
さらに同氏は、「2007年にはユコス社長を引退し、ロシア大統領を目指す!」と発言。
増長した彼は旧KGB(現FSB)軍団が動き出していることに気がつきません。
ビジネスの方も順風だったのです。
ホドロコフスキーと、石油大手シブネフチ筆頭株主アブラモービッチ(現在ロシア・イギリス一の大富豪・英名門サッカーチーム・チェルシー買収で知られる)は03年4月22日、「ユコスとシブネフチを合併する」と発表。
当時、ユコス時価総額は250億ドルで東欧最大の企業。シブネフチは115億ドルで東欧5位。両社が合併すると、民間企業としては埋蔵量世界1位、生産量世界4位、時価総額9位の新オイルメジャー誕生。

わかります。これで増長しない人間なんていないでしょう。
しかし、ホドロコフスキーはプーチンを甘く見すぎていました
KGB出身プーチンの基盤は連邦保安局(FSB)、内務省最高検察庁、軍。そして、クレムリンはこの時までに3大テレビ局(ORT、RTR、NTV)を支配していた。なおかつ、ロシアの経済急成長は5年目に入っていて、プーチンは国民から圧倒的支持を得ている。
最高検察庁は03年7月3日、ユコスの親会社メナテップ(ユコス株61%を保有)会長レベデェフを、横領の容疑で逮捕しました。
さらに最高検は同年10月25日、ホドロコフスキー本人を横領・脱税等7つの容疑で逮捕。
10月30日には、同氏が保有するユコス株44%を差し押さえます。
11月3日、ホドロコフスキーは刑務所の中から、「ユコス社長を辞任する」と発表。
03年12月7日、下院選挙。
プーチンに絶対服従の与党「統一ロシア」は450議席中222議席を得て圧勝。その他、親プーチンの「ロシア自民党」は38議席、「祖国」37議席、「人民党」19議席
450議席中約70%にあたる316議席プーチン派。
ユコスからの資金が止まった、「右派連合」「ヤブロコ」は1議席も取れず惨敗。反プーチン政党で唯一議席を確保できたのは「共産党」(53議席)のみ(残りは無所属)。
明けて04年3月14日。大統領選挙が実施され、プーチンは72%の得票率で再選を果たします。2位共産党ハリトノフ(13.7%)に5倍以上の差をつけ、圧倒的勝利でした。


○アメリカ、対ロ政策の転換点
長々と、ロシアの国内問題を書いてきましたが、ユコスの行方をじっくり見守っていたのがアメリカ。
実をいうと、アメリカ、具体的には当時世界最大の企業だったエクソン・モービルシェブロン・テキサコは当時、ユコスの買収交渉を進めていたのです。
アメリカの戦略を既に理解しておられる皆さんは理由がわかるでしょう。

ロシアは世界2位の石油大国である。そして、ユコスは生産量でも時価総額でもロシアの石油最大手である。これをアメリカは抑えたい。
ユコスとシブネフチの合併が実現し、超巨大企業が出現する。これを買収できればなおすばらしい。

もう一つ。アメリカはロシア→中国の石油の流れをカットしたいというお話をしました。
ユコスはロシアの石油業界で、中国との関係がもっとも深い企業だったのです。
皆さんも聞いたことがあると思いますが、東シベリアからパイプラインを極東までひくのか、中国までひくのかという話。
元々、シベリア~中国大慶パイプライン構想は1997年にユコスが提唱したもの。
さらに、ユコスは鉄道で中国への石油輸出を開始していました。同社は03年、600万トンの原油を中国に鉄道で輸出しています。

アメリカとしては、今はチョロチョロのロシア→中国の石油の流れをカットしなければならない。あるいは、ユコスを買収して大儲けし、いざとなったら栓をしめれる状態を作りたい。

「石油は戦略物資でロシア経済の大黒柱。政府が売却を許さないのではないですか?」

そのとおりです。ところが、アメリカを楽観視させるできごとが同時期に進行していたいのです。
ロシアの石油大手チュメニ石油(TNK)と英BPは03年2月、「合弁会社TNK‐BPを設立する」と発表します。そして、プーチンも特に反対している様子はない。実際、TNK‐BPは03年の9月に設立されています
アメリカもこういう流れを見ていますから、「ユコス買収もいけるのでは?」と思っていた。

ところが、最高検はレベデェフとホドロコフスキーを逮捕し、保有株を差し押さえてしまった。
アメリカ政府はこれで、

プーチンユコスを支配するつもりだ。アメリカはユコスを買収できないし、石油業界に入り込めない」

ということがわかった。
その後の動きを見ると、03年12月、ユコスとシブネフチの合併話が流れました。
そして、国営石油会社ロスネフチは04年12月、ユコス傘下で最大の企業ユガンスクネフチガスを買収。
また、天然ガス世界最大手ガスプロム(国営)は05年9月、シブネフチを買収。ガスプロムはこれで資産を増やし、06年5月にはエクソンモービル・ジェネラルエレクトリックにつぐ、世界3位の企業になりました。
このように、プーチンエリツィン時代に失われた石油ガス業界を国家の支配に戻すことに成功したのです。

アメリカは「ロシアを封じ込めて叩きつぶす」ことを決意。
米ロ冷戦が再開されました。


アゼルバイジャンとBTC
どんどん話がローカルになっていきます。
カスピ海沿岸にアゼルバイジャンという国があります。19世紀初めからソ連崩壊まで、約190年もの間ロシアの支配下にあった。
この地域が注目されるようになったのはソ連崩壊後。1991年8月にアゼルバイジャンは独立を宣言しています。

世界の石油支配が国策であるアメリカはこの国を放っておけません。しかし、簡単ではない。
アゼルバイジャンを地図で見ると、世界市場にはアクセスできない位置にある。唯一の方法はロシアの黒海沿岸都市ノボロシースクまでパイプラインで運ぶこと。
アメリカは考えます。

「なんとかアゼルバイジャンの石油を、ロシアを経由しないルートで出せないか?」

クリントン大統領(当時)は1996年、アゼルバイジャンのゲイダル・アリエフ大統領(当時)に電話して提案しました。

「ロシアを経由しないで、アゼルバイジャンの石油を世界市場に出せるパイプラインを作らないか?」

ルートは同国の首都バクーから西の隣国グルジアの首都トビリシを経由し、トルコのジェイハンに抜ける。
アリエフは即座に同意しました。
ところが提案したほうのクリントン。彼のバックは石油業界ではなく金融界。アメリカはITバブルで空前の好況を謳歌している。

「金融で儲けられる。石油なんて泥(油)臭いし古臭い」

話はなかなか進展しませんでした。
しかし、石油業界がバックのブッシュが大統領になって、プロジェクトはよみがえります。
カスピには石油もガスもたっぷりある。ところが、今はロシアを経由しなければ出せない。これを確保することはブッシュの世界戦略と一致しています。
2002年、パイプライン建設のための合弁会社BTCが設立されました。
出資比率をみると、英BP(30.1%)、アゼルバイジャン国営石油会社(GNKAR)25%、Unocal(8.9%)、Statoil(8.71%)、TPAO(6.53%)、ENI(5%)、Total Fina Elf(5%)、伊藤忠(3.4%)、Inpex(2.5%)、Conoco Philips(2.5%)、Amerada Hess(2.36%)。
パイプラインの全長は1767km、輸送能力は年間5000万トン。プロジェクトは総額36億ドル。
03年4月から建設が始まりました。


グルジアバラ革命
長々とアゼルバイジャンの話をしてきましたが、ここでのメインテーマはこの国ではなく、お隣の国。
BTCはアメリカの世界戦略と合致している。つまり、「ロシアの国益に反する」ということ。
しかし、ロシアはアゼルバイジャンをいじめることができません。いじめれば、さらにアメリカに接近してしまうからです。
そこでロシアはパイプラインが通過するグルジアに圧力をかけます。
グルジアアゼルバイジャンと同じく、91年にソ連から独立しています。
大統領(当時)はゴルバチョフ時代ソ連の外相だったシュワルナゼ。グルジアの大統領になっても、ずっと親米路線をつづけていました。
ロシアはどうやってグルジアをいじめたか?
グルジアには、アプハジア・南オセチアといった独立を目指す共和国があり、中央政府と対立している。
ロシアはこれらの共和国を支援することで、グルジアの政情を悪化させます。グルジアが不安定になれば、パイプライン建設もできないだろうと。
BTCには世界の一流企業が出資していますから、紛争地域にパイプラインなんか建設したくない。
ロシアのグルジアいじめはBTCパイプライン構想が実現に近づけば近づくほど厳しくなっていきました。
グルジアはロシアにガスや電力を依存している。ロシアは同国への供給を制限し、経済に大打撃を与えます。
シュワルナゼにとっては大変なストレスで、彼は米ロの間をウロウロしはじめました。
アメリカ政府は、

「このじいさんではダメだ。もっと若くて、イキがよくて、反ロで、俺らのいうことを聞く男を大統領にしよう」

と決意します。
03年11月2日、グルジアで議会選挙が実施されました。
結果は親シュワルナゼの与党「新しいグルジア」が21%で1位。2位はサアカシビリ率いる「国民運動」で18%。
野党はこの選挙結果は「不正だ!」とし、「選挙やり直し」と「大統領辞任」を求める大々的なデモを行います。11月22日には、野党勢力が国会議事堂を占拠。23日に大統領は辞任しました。
これを一般的にバラ革命といいます。


バラ革命はアメリカの革命
皆さん、「グルジアバラ革命はアメリカがやったのですよ」といったらどうですか?

「トンデモ系ですか?もうここで読むのは終わりにします!」

と腹を立てる人もいるでしょう。
しかし、これは日本の新聞にもバッチリ載っている事実なのです。
役者の一人は国際投機家ジョージ・ソロス
ソロスは2000年に初めてグルジアを訪問。シュワルナゼに話をつけ、「オープン・ソサエティ財団」の支部を開設します。
この財団は後に、反政府系NGOを支援。シュワルナゼはソロスと同財団の動きを非難します。一方、ソロスは「シュワルナゼは非民主的だ。03年秋の議会選挙は公正に実施されないだろう」と反論。

03年12月1日の時事通信に、面白い記事があります。
グルジア政変の陰にソロス氏?=シェワルナゼ前大統領が主張
【モスクワ1日時事】グルジアのシェワルナゼ前大統領は、11月30日放映のロシア公共テレビの討論番組に参加し、グルジアの政変が米国の著名な投資家、ジョージ・ソロス氏によって仕組まれたと名指しで非難した。
ソロス氏は、旧ソ連諸国各地に民主化支援の財団を設置、シェワルナゼ前政権に対しても批判を繰り返していた。(時事通信-03年12月1日)〉

革命の主役はサアカシビリ(現グルジア大統領)。
コロンビア大学ジョージワシントン大学を卒業したバリバリの親米派
2000年9月からシュワルナゼ政権の法相を務めていましたが、「政権の腐敗ぶりに失望した!」と1年後に辞任。アメリカから革命の手ほどきを受けるようになりました。

その後の動きを追っていきましょう。
ソロスは財団を通し、反シュワルナゼ系のNGONPOを支援。着実に基盤を築いていきます。
03年7月、ベーカー元国務長官グルジアにやってきました(ロシアでレベデェフが逮捕された直後)。ベーカーとシュワルナゼは共に米ソ冷戦を終わらせた歴史的人物で親友。
ベーカーはいいます。

「11月の議会選挙は公正にやったほうがいいよ。不正があるとアメリカはあなたを支援しなくなるから。野党と話し合って選挙管理委員会を作りなさい」

この訪問について、新聞にはなんと出ているか?

03年11月23日の読売。
〈【モスクワ=五十嵐弘一】グルジアでの政府と野党の対立は、野党が実力行使で議会を占拠するという最悪の事態に発展した。(中略)
本来、シェワルナゼ政権は、北大西洋条約機構NATO)入りの意向を鮮明にするなど、親米欧の路線を取る一方、チェチェン問題などをめぐってはロシアと対立を繰り返してきた。ゴルバチョフ旧ソ連政権時代に、「新思考外交」を推進したシェワルナゼ氏の胸中には、いまだに米欧には「冷戦終結の立役者」の自分に対する感謝の念と、支援の感情があるとの確信があったからだと言われる。
だが今年夏、米特使としてトビリシを訪問したジェームズ・ベーカー元国務長官は、シェワルナゼ氏のおひざ元で、今回の反政府行動を主導したサアカシュビリ元法相ら野党指導者と会談し、既に「ポスト・シェワルナゼ」に視線を移していることを露骨に示した。ともに冷戦終結を主導した旧友としてベーカー氏を信頼していたシェワルナゼ大統領は、内心強い衝撃を受けたと言われる。
政変の帰結を予測するのは困難だが、決定的な要因の1つが米国にあることは衆目の一致するところだ。〉

で、結局どういう話になったか。
野党側は、「アメリカに選挙の監視をしてもらおう」と主張します。それで、アメリカも「OK!」ということになった。
そして、アメリカの民間調査会社が出口調査を行うことになったのです。
11月2日、選挙管理委員会の発表はアメリカ側の出口調査と違っていました。そして、その結果が報道されると、野党側は大々的なデモを展開し、シュワルナゼを辞任に追い込んだのです。

これを「出来レース」と思えない人がいれば、その人は相当な聖人か平和ボケ症状最末期といえるでしょう。
このデモに関しても、シュワルナゼはコメントしています。

03年11月29日付朝日新聞
〈「混乱の背景に外国情報機関 シェワルナゼ前大統領と会見野党勢力の大規模デモで辞任に追い込まれたグルジアのシェワルナゼ前大統領は28日、首都トビリシ市内の私邸で朝日新聞記者らと会見した。大統領は混乱の背景に外国の情報機関がからんでいたとの見方を示し、グルジア情勢が不安定化を増すことに懸念を表明した。
前大統領は、議会選挙で政府側による不正があったとする野党の抗議行動や混乱がここまで拡大するとは「全く予測しなかった」と語った。
抗議行動が3週間で全国規模に広がった理由として、「外国の情報機関が私の退陣を周到に画策し、野党勢力を支援したからだ」と述べたが、「外国」がどこかは明確にしなかった。」

まあ、明確にしなくてもわかるでしょう。
さらに、政変が石油がらみであることについて、

03年11月27日付産経。
〈「親米」確保へ巧妙 石油戦略要衝…ブッシュ大統領「最大限の支援」
【ワシントン=近藤豊和】米国は、グルジアの暫定新政権に対し、医療物資を緊急支援することなどの協力方針を早くも打ち出した。シェワルナゼ前大統領の腐敗ぶりに見切りをつけ退陣を後押しした米国は、エネルギー戦略上の必要性などから、引き続きグルジアの「親米外交」姿勢を確保する構えで、ブッシュ大統領は26日、ブルジャナゼ暫定大統領と電話で協議し、グルジアの安定へ「最大限の支援」を約束した。
国務省のバウチャー報道官は25日の会見で、グルジアへ300万ドル相当の医療物資を支援し、公正な選挙実施などについて暫定政権と協議するため、代表団を来週にも派遣すると表明。「グルジアの石油パイプラインをめぐっては、暫定政権も方針を変えないとみている」と強調した。
報道官が言及したパイプラインとは、カスピ海の石油をトルコ経由で欧州方面に輸出する「BTCライン」と呼ばれるもので、グルジアを通過する。米国が1999年にグルジア、トルコ、アゼルバイジャンとの間で建設に合意し、来年の完成を目指している。
カスピ海の石油は、中東の石油に対する依存率を下げたい米国にとってエネルギー戦略上極めて重要だ。
このため米国は、グルジアには1991年の旧ソ連からの独立時から積極的な支援を展開。歴代米政権の援助総額は10億ドル以上にのぼる。〉

アメリカは成功パターンを確立しました。
1、現地のNGONPOを支援し、反政府勢力を育てる
2、選挙が実施される。
3、アメリカの意に沿わない政党や候補が勝った場合、選挙監視団が「選挙には不正があった!」と発表する。
4、野党はこの発表に乗じて「選挙のやり直し」や「大統領の辞任」を求め、大々的デモを行う。
5、大統領が辞任するか再選挙が実施され親米候補が勝利し、革命成就。

このパターンはその後他の旧ソ連諸国で繰り返されることになります。
グルジアはどうなったか?
04年1月の大統領選挙で、サアカシビリが勝利。ロシアの旧植民地グルジアに、アメリカの傀儡政権が誕生しました。
ちなみに、アゼルバイジャンではゲイダル・アリエフが死亡。03年10月から息子のイリハム・アリエフが大統領を務めています。
なおBTCは06年6月から稼動しはじめ、ロシアに大打撃を与えつづけています。
アメリカはその後、04年12月にウクライナで「オレンジ革命」を、05年3月、中央アジアキルギスで「チューリップ革命」を起こし、傀儡政権樹立に成功しています。
長くなりますので、経緯や証拠の提示はひかえておきます。興味がある方は、拙著「中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日~一極主義対多極主義」(草思社)をご一読ください。


ウズベキスタンの革命未遂
03~05年まで、アメリカは絶好調でした。
イラクではフセインを打倒し、旧ソ連諸国では三つの革命を成功させた。

「このまま旧ソ連諸国を全部アメリカの支配下においてしまえ!」

くらい勢いがあったのです。
しかし、事態は思わぬ方向に転がっていきます。
(アメリカが革命を起こした)中央アジアキルギスの西隣にウズベキスタンという国があります。91年8月にソ連から独立しました。
大統領は当時から今にいたるまでず~とカリモフさん。欧米の規準でいえば、独裁国家といえるでしょう。
チューリップ革命から2ヶ月後の05年5月、この国で革命未遂が起こりました。
ウズベキスタン東部のアンディジャン市で05年5月13日、武装集団が刑務所を襲撃し、政治犯の多くを解放。警官を人質に取り、政府施設を占拠します。
これが大規模なデモに発展。要求は、「カリモフ大統領の退陣」。
武装集団は反政府イスラム組織「アクラミヤ」を名乗り、この行動は「カリモフ体制への反乱」と宣言。デモは市民の参加でみるみる数千人規模に膨れ上がります。
大統領は即座に現地に飛び、鎮圧部隊を出動させました。
部隊は反政府暴動を武力により鎮圧します。ロイターによると、約500人の犠牲者が出た(政府発表では169人)。
カリモフ大統領は5月14日、「大勢の群集が無秩序をもたらす危険があった」と述べ、武装集団および民衆への発砲を正当化しました。

キルギスの革命からわずか2ヵ月後に、お隣の国で起こったこの事件。果たしてアメリカが背後にいたのでしょうか?
これは、はっきりとわかりません。そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。
しかし、事実としてこの事件が、アメリカの後退とロシア逆襲のきっかけになりました。
まずアメリカの反応はどうだったのか?
国務省は5月19日、「何百人ものデモ参加者が軍の暴力で殺害され、厳しい態度を取らざるを得ない」と発表。
さらに、「ウズベキスタン支援の一時停止を米国務省内で検討中」とし、同国の民主化を進めるために制裁を含む措置を取ること、外交政策を根本的に見直す方針を明らかにします。
さらにライス米国務長官(当時)は5月20日、国務省で「カリモフ政権に真相究明のための調査を受け入れるよう求めている」と述べ、ウズベキスタンが国際調査団を受け入れるよう要求しました。
しかし、カリモフもこれまでのカラー革命の経緯を知っています。国際選挙監視団は、欧米に都合の悪い大統領を常に非難し、反政府勢力を後押ししてきた。
もし欧米の息がかかった国際調査団が来て、「カリモフ大統領の行動はあまりにも非人道的だった!」などと発表されたら……反政府勢力が勢いづいて革命行動が再燃する可能性が出てきます。
ライスはさらにいいます。「そのうえで、人権問題で改善が見られない場合は支援を見送る」。
この時、ロシアや中国はたくさんの民衆を殺したカリモフを一言も非難しませんでした。

旧ソ連諸国の独裁者たちははっきりと理解したのです。次のように――
1、アメリカとつきあっていると、いつ革命を起こされるかわかったもんじゃない!(だからできるだけつきあわないほうがいい)
2、ロシアと中国は俺らと同じ独裁国家。両国は「民主化」も要求しないし、独裁者同士話しもしやすい。これからはロシア・中国とつきあおう!
3、革命は大統領が決心して武力鎮圧すれば防ぐことができる。

カリモフはさっそく行動にでました。金をくれない、革命を組織するアメリカとつきあっても「百害あって一利なし」です。
ウズベキスタン政府は05年7月30日、アメリカに対し、01年のアフガン攻撃時から駐留していた米軍の180日以内の撤退を正式に要求しました。


○アメリカ激怒
03年末から05年3月まで、アメリカはイケイケでした。グルジアウクライナキルギスで革命戦3連勝。
ところが、ウズベキスタンの革命未遂事件から流れが一転。
中央アジアは中ロよりにシフト。東欧でも、ウクライナで親ロ派が実権を奪取。ベラルーシでも親ロの大統領が勝利。
アメリカは激怒し、対ロバッシングはドンドンエスカレートしていきました。

例えば、ミュンヘン安全保障会議(06年2月3日~5日)。アメリカのマケイン上院議員(後の共和党大統領候補)は、G8の首脳達に、「サンクト・ペテルブルグサミットへの不参加」を呼びかけます。
その理由について同議員は、

プーチンのロシアは民主主義国家でもなく、世界経済のリーダーでもないから」

もっとすごいことも言っています。

同氏によると、世界の3大問題は「不安定なイラク」「核兵器を保有するイラン」そして、「プーチンのロシア」。

ブッシュはベラルーシ大統領選とウクライナ議会選後の06年3月29日、ワシントンで演説。

「私はロシアを見放していない!」

と語ります。
アメリカでは当時、「ペテルブルグサミットをボイコットすべき」という意見が多かった。
これについてブッシュ。

「私のプーチン大統領に対する戦略は率直に話せる関係にあることだ。私は彼と多くの時間を過ごし、(ウクライナなど)近隣の民主国家、国内の民主主義を恐れるべきでないと明確に伝えてきた。ロシアは西側諸国と協調することが自らの利益だと理解するだろう」

ここでブッシュは二つのことをいっています。
1、旧ソ連諸国での民主国家・国内の民主主義を恐れるな(建前)。→旧ソ連の国々でアメリカが民主革命を起こすことを邪魔するな。ロシアでアメリカが革命を起こすのを邪魔するな(本音)。
2、西側諸国と協調することがロシアの利益だ(建前)。→中国やインドと結託してアメリカの一極支配に対抗するとひどい目にあわせるぞ!(本音)。

今度は、ネオコンの首領チェイニーさんが登場します。
「民主的選択共同体」という集まりがあります(05年創設)。提唱したのはウクライナユシチェンコ大統領(当時)と、グルジアのサアカシビリ大統領。
目的は「旧ソ連諸国の民主化を推進する」こと。要は、カラー革命をどんどん起こすための集まり。性格的には完全反ロ。そして、もちろんアメリカが後ろにいます。
この共同体の首脳会談が06年5月4日、リトアニアの首都・ビリニュスで開かれました。参加したのはウクライナグルジアモルドバラトビアエストニアブルガリアポーランドルーマニアリトアニアの首脳。
そして、アメリカ合衆国副大統領(当時)チェイニー。
演説で何をいったか。

チェイニー「ロシアでは今日、反改革派が10年間の成果をぶち壊そうとしている」

反改革派というのはプーチンと旧KGB軍団のこと。
チェイニーはロシアが

「石油とガスを恫喝と脅迫の道具として使っている」

と非難。
さらに、

「隣国の領土保全を傷つけたり、民主化運動に介入することは正当化されない」

領土保全を傷つけているというのは、ロシアがグルジアからの独立をめざす南オセチアなどを支援していることを指しています。
民主化運動に介入するというのは、ベラルーシのルカシェンコを支持したり、ウクライナむけのガス料金を値上げしたこと等々。
ビリニュスでは共同声明が出されています。

内容は、
1、東欧民主化プロセスへの直接的・間接的支援を欧州諸国に要請する。つまり、欧州も反ロカラー革命を支援してください。
2、東欧の新しい民主国家はEU加盟をすすめるべく、法改正を行う。つまり、「皆さんロシアの影響圏を離れEUに入りましょう」。
3、ロシアに対して共通の一体化したアプローチをとることを欧州に提案する。つまり、「(親ロの)フランスやドイツもアメリカと一体化して、反ロになってください」。
4、EUに加盟していない欧州諸国は自由貿易圏を作る。


プーチンの歴史的決断
狂ったようにロシアバッシングをつづけるアメリカ政府。これに対し、プーチンは歴史的な決断を下します。
プーチンは06年5月10日、年次教書演説を行いました。ロシア政府の本音がよく表れています。

「私たちは世界で何が起こっているか見ている。私たちは見ている。いわゆる『オオカミさんは誰を食うか知ってる』。食って誰のいうことも聞かない。そして、聞く気はないようだ」

これはオオカミのアメリカがアフガニスタンイラクを攻撃し、イラン攻撃を計画していることを指摘したのです。

「自分の利益を実現する必要があるとき、人権と民主主義のための戦いへの熱意はどこにいってしまうのか?ここではなんでもありだ、なんの制限もない」

アメリカは「人権を守れ!」「独裁反対」ですね。
しかし、石油がたっぷりある国の親米独裁者(例、サウジ・カザフスタンアゼルバイジャン等々)を保護している。要は反米の独裁者=悪、親米の独裁者=善。
プーチンはオオカミ対策として、「軍拡の必要性」を強調しました。しかし、アメリカの軍事費はロシアの25倍(!)、他の対策が必要です。
演説中もっとも重要な発言は、

ルーブルをドル・ユーロなどの主要通貨と、完全交換可能にする準備を06年7月1日までに完了する」

と宣言したこと。
ロシアはルーブル外国為替との交換を制限していましたが、これを撤廃します。
さらに

「石油など我々の輸出品は世界市場で取引されており、ルーブルで決済されるべきだ」

「ロシア国内に石油、ガス、その他商品の取引所を組織する必要がある」

取引通貨はもちろんルーブル
皆さんはもうおわかりでしょう。
世界最大の財政赤字貿易赤字・対外債務国家アメリカが生き延びているのはドルが基軸通貨だからでした。
ドルが基軸通貨でなくなればドルは暴落し、アメリカは没落する。
フセインは2000年11月に石油の決済通貨をドルからユーロにし、アメリカから攻撃されました。
プーチンフセインと同じ決断をしたのです。
しかも、イラクとロシアでは世界に与えるインパクトが全然違います。

そもそも、プーチンはアメリカのアキレス腱を知っていて、「ドルの使用量を徐々に減らす」方針を取ってきました。
ロシア中央銀行は06年6月、「外貨準備に占めるドルの割合をこれまでの70%から50%に下げる」と発表しています。そして、ユーロを40%まで引き上げる。
ロシア中銀のイグナチエフ総裁は外貨準備の中に円やポンドを加え、ドル離れをさらに加速させる意向を示しています。
またメドベージェフ第1副首相(当時)は06年6月、アメリカの双子の赤字から生じるリスクを低減するため、各国は準備通貨としてのドルへの依存を減らすべきだと提言している。

プーチンは言葉で脅すだけでなく、すぐ行動に移しました。
ロシア取引システム(RTS)で06年6月8日、初のルーブル建てロシア原油の先物取引が開始されました。
アメリカの超エリートはプーチンの決断に卒倒したに違いありません。
06年6月6日、キッシンジャーがモスクワに来てプーチンと会談。同氏は「米ロ関係は年々改善している」とお世辞(大ウソ)をいい、プーチンをなだめようとしました。
また、日米欧3極委員会は6月30日、ロシアに関する提言書を発表。
「西側の視点から見るのではなく、ロシアの現状を理解すべき」とし、「ロシアがより協力的な路線に復帰するようサミットを活用すべき」と提案します。
06年7月15日~17日に行われたサンクトペテルブルグ・サミットでも、ブッシュはロシア批判をしませんでした。
ロシアはアメリカを短期間で没落させることのできるカードを手にしたのです。


◇第4章
○「悪の薩長(中ロ)同盟」とアメリカの没落
欧州からはじまったアメリカ倒幕運動。
ところが、旧ソ連でのアメリカの革命に激怒したロシアが参戦した。
そしてプーチンは禁じ手(ルーブルで石油を売る)を使うことを決意しました。
プーチンはもう一つ歴史的な決断をしています。
それが仮想敵No.2である中国との同盟。
幕末、薩摩藩長州藩は犬猿の仲でした。
しかし、徳川幕府打倒で一体化した。
これを「薩長同盟」とよぶのは、皆さんもご存じのとおり。
現代では、犬猿の仲だった中国とロシアが「アメリカ打倒」で一体化した。
そして、ついにその日がやってきたのです。


○中国の戦略
中国の戦略を考えてみましょう。
GDPで世界2位、軍事費でも世界2位の中国。
勝てる見込みのない仮想敵は世界でただ一国、アメリカ合衆国
中国の目標は

「アメリカに勝って覇権国家になること」

別に戦争をして勝たなくてもいいのです。孫子がいうように、「戦わずして勝つ」のが一番いい。
ではどうすれば勝てるのか?
中国の敵・アメリカの動きを見ればわかります。

第1に、潜在破産国家アメリカが覇権国家でいる理由は、「ドル基軸通貨体制」のおかげ。
つまり、中国は「ドル基軸通貨体制を崩壊」させればいい。

第2に、アメリカは世界一の石油消費国。しかも石油が枯渇しはじめる。だから、中東、ロシア、カスピの石油・ガスを支配する。
中国が世界一の経済・軍事大国になるためにも石油・ガスは不可欠。
当然中国も、中東、ロシア、カスピ(特に隣接する中央アジア)の石油・ガスを押さえなければならない。

第3に、アメリカは中東・ロシア・カスピ支配に成功した後、中国民主化を画策するでしょう。
中国は覇権国家の条件である金力(経済力)と腕力(軍事力)を強化していく。

もう一度簡単に中国の戦略を書くと、
1、ドル基軸通貨体制を崩壊させる。
2、中東、ロシア、カスピの石油・ガスを確保する。
3、経済力と軍事力を強化し続ける。

3については、詳しくお話する必要もないでしょう。
2についても、長くなるため詳述するのはひかえます。


○最強の同盟国・ロシア
ロシアにとって中国は「仮想敵No.2だ!」という話はもうしました。
しかし、中国にとってのロシアは最重要国なのです。

第1に、中国の武器輸入の90%はロシアからだった(ここ数年、ロシアは中国への最新兵器輸出を制限するようになっています)。

第2に、アメリカが中東支配に成功した場合、中国は陸続きのロシアから石油を輸入するしかなくなる。

ロシアはアメリカを憎みつつも、中国を恐れているという話でした。
ロシア政府のお偉いさんは皆、「アメリカと中国は戦って共に滅んでしまえ!」と思っていた。
しかし、事態は中国有利に展開していきます。
アメリカの自業自得。
今まで書いてきたように、アメリカは03~05年、ロシアの旧植民地である旧ソ連諸国グルジアウクライナキルギスで革命を起こしました。
プーチン大統領(当時)は激怒し、

「アメリカは目前の問題。中国は長期的問題。ま
ずは中国と組んでアメリカ問題を克服しよう!」

と決意してしまった。
ここでは中ロがどこまで親密になっているのかという話をしましょう。
日ロ関係の障害といえば北方領土問題。
中ロにも41年にわたる領土問題がありました。これを両国は05年6月に解決しています。
ロシアと中国は05年6月2日、東部国境画定に関する批准文書を交換。これにより国境問題は最終的に決着しました。

「双方が譲歩して領土問題を解決する」

かなり良好な関係にあるということです。
胡錦濤は05年7月、モスクワを訪問し、プーチンと会談しました。両首脳は7月1日、クレムリン国連中心主義を柱とした「21世紀の国際秩序に関する共同宣言」に調印します。


○なぜ「国連中心主義」なのか?
中国とロシアは共に国連安保理常任理事国で、拒否権があります。ですから、アメリカがどこかの国(例えばイラン・北朝鮮)と戦争するのを違法と非難する権利がある。
アメリカは国連安保理を無視してイラクを攻めたため、アナン国連事務総長は「イラク攻撃は国際法違反だ!」と断言しています。
中ロが国連中心主義を掲げるのは、常にアメリカの戦争に反対するため。そして、両国は

「平和を愛する国」

としての名声を確立し、アメリカの評判は失墜していく。
05年8月18日、中国とロシアは初の合同軍事演習を実施しました。
これは明らかに、台湾とその後ろにいるアメリカを想定したものなのです。

「トンデモ系・陰謀系には興味ありません。これ以上読まないことにします」

まあ、もう少し待ってください。これは日本の新聞にもバッチリ出ている事実なのですから。

産経新聞05年8月19日付には以下のようにあります。
「両国は今回の演習について「両国の相互理解と友好協力を促進するためで、第三国に向けたものではない」と表明しているが、米国の一極支配に対抗する戦略的な提携強化の一環にほかならない。」

また、読売新聞05年8月24日付は、台湾の反応を載せています。
「中露軍事演習、台湾外交部長が非難「地域平和に影響」
【台北=石井利尚】台湾の陳唐山・外交部長(外相に相当)は23日、読売新聞と会見し、中国とロシアの軍事演習について、「台湾を威嚇しており、(東アジア)地域の将来の平和に影響を及ぼすものだ」と強く非難した。」
「また、合同演習が、日米の安保協議共同声明に「台湾海峡問題の平和的解決」が盛り込まれたことに関係があると指摘、「台湾問題に手を出すなという、米国や日本への中国の警告だ」と述べた。」(同上)

外交部長は、暗澹たる思いで、国際社会に訴えかけます。

「陳氏はさらに、『民主的で自由な台湾が706基の中国のミサイルの脅威に直面している現実は中国の言う『内政』ではなく、国際問題のはずだ』と語り、国際社会の関与を求めた。」(同上)

プーチン大統領(当時)は06年3月21日北京を訪問、胡錦濤国家主席と会談し、共同声明に署名しました。
両首脳は声明の中で、イランの核問題で中ロが

「政治的・外交的手段で解決を図るよう協力する」

と確認。
ロシアはイランの原発利権に関与しています。中国にとっては原油供給国。そしてイランの石油利権にかなり入り込んでいる。
中ロはイラクの石油利権をアメリカに武力で奪われた苦い経験があります。イランの利権をアメリカが独占するのは許しがたいですよね。
また、中ロ両首脳はガスパイプライン建設で合意。
そして、天然ガス世界最大手ガスプロムと中国石油天然ガス集団公司(CNPC)は3月21日、パイプライン建設に関する覚書を交わしました。
ロシアは中国むけガスパイプラインを2本建設する。一本はウラルからアルタイを通り、もう一本はサハリンからハバロフスクを通過し、中国にいたる。
供給量は年間600億~800億立方メートルの予定ですが、これは05年の中国の全消費量(500億立方メートル)を上回る莫大な量なのです。
中国とロシアが反米で一体化している様子がご理解いただけたでしょう。


○反米の砦・上海協力機構
最近注目されることが多くなった上海協力機構(SCO)。
SCOは01年6月15日に創設されました。加盟国は、中国・ロシア・中央アジア4国(カザフスタンウズベキスタンキルギスタジキスタン)。
中国にとってSCOは石油・ガスがたっぷりあるお隣の地域・中央アジアへの影響力を確保するのに必要。
米軍は01年のアフガン攻撃時、中央アジアにちゃっかり駐留し、そのままいすわってしまいました。
中国から見れば、米軍は「中国封じ込め」と「資源確保」という大きな目的のために駐留している。この地域からアメリカを駆逐し、資源を我が物にするためにSCOは便利なのです。
そればかりではありません。中国とロシアはSCOを「多極化推進の中心的組織」に育てあげました。
多極化推進というのは別の言葉でいえば

「アメリカ一極支配を崩壊させる」

ということ。
動きを追ってみましょう。
05年3月に中央アジアキルギスでアメリカによる「チューリップ革命」が起こった話をしました。その後、ウズベキスタンで革命未遂があった。
旧ソ連中央アジアは皆欧米の基準からみると独裁国家
独裁者達はキルギスウズベキスタンの出来事を見て、はっきり理解しました。

「アメリカとつきあっていると、いつ革命を起こされるかわからない。どうせなら同じ独裁国家の中ロと仲良くしよう!」

それでどうなったか?
05年7月5日、カザフスタンの首都アスタナでSCOの首脳会議が開かれました。ここで「アスタナ宣言」が採択されています。
そして、アスタナ宣言は中央アジア駐留米軍の撤退を要求しているのです。
05年5月の革命未遂時、「民衆に発砲した」ことを欧米から批判され気落ちしていたウズベキスタンのカリモフ大統領。SCOを味方につけ勇気100倍。
ウズベキスタン政府は05年7月30日、アメリカに対し、01年のアフガン攻撃時から駐留していた米軍の180日以内の撤退を正式に要求しました。
さて、05年7月の首脳会談ではもう一つ歴史的な決定がなされています。

イラン、インド、パキスタンが準加盟国として承認されたのです。

驚くべき決断です。

イランは「悪の枢軸」で、アメリカの敵No.1。
これを準加盟国にするということは、

「中ロはイランをアメリカから守る」

という意味でしょう。もちろん武力は使わないでしょうが(2010年になってロシアとイランの関係は悪化してきました)。

パキスタンイスラム教の国。
9.11後、アメリカに協力し、関係は良好に見えます。しかし、パキスタンはアメリカに脅迫されて服従しているだけ。

時事通信06年9月22日付に、以下のような記事があります。
空爆石器時代に戻る覚悟を」=アーミテージ氏が脅迫――パキスタン大統領
【ワシントン21日時事】米CBSテレビは21日、パキスタンムシャラフ大統領が同テレビのインタビューで、知日派として知られるアーミテージ元国務副長官から2001年9月のアメリカ同時テロ発生後、対テロ戦争で米国に協力しない場合、空爆すると脅迫されたと述べたと報じた。
ムシャラフ大統領によると、アーミテージ氏は「空爆の覚悟をしておけ。石器時代に戻る覚悟もしておけ」と発言。この発言は情報機関の責任者から同大統領に伝えられた。(以下略)」

これどうですか?まともな神経の大統領でも恨みを持つし、

「隙あらば反逆しよう」

と考えませんか?
パキスタンがSCOの準加盟国になったのは、

「この組織はアメリカに復讐してくれる」

という期待があるのでは?

インド。
インドはアメリカといい関係を保っています。
しかし、ロシアの武器輸出の35%はインドむけ。当然両国関係は良好。そして、仮想敵・中国とも和解を成し遂げています。
1961年の非同盟諸国会議設立を主導したインドの思想は「多極世界支持」。そして、インドは多極世界の一極になる力が十分あります。

これまで3回戦争をしているインドとパキスタンが、仲良くSCOの準加盟国になっている。これはアメリカ一極主義の衰退と、中ロ多極主義の影響力拡大を示す一つの証拠といえるでしょう。

06年6月15日、上海でSCO創設5周年を記念する首脳会議が開かれました。
準加盟国イランのアフマディネジャド大統領は、SCOエネルギー相会議をイランで開催することを提案。
そして、「SCOを強化し、他国による内政干渉や脅しに対抗すべきだ」とアメリカを非難しました。
プーチンはこの時、加盟国でエネルギー協力を強化する「SCOエネルギークラブ」創設を提唱しています。
首脳会議は「5周年宣言」を採択しました。宣言は

「政治体制の違いを内政干渉の口実にしてはならない」

中央アジア各国政府の安定維持の努力を支持する」

と明記しています。
ここまで読んでこられた皆さんは、意味がわかりますね。これは、

「中ロは中央アジアの独裁者達をアメリカのカラー革命から守る」

と宣言しているのです。

もう一点、この首脳会議の重要な内容は、「準加盟国の正式加盟手続き」が開始されたこと。
実現するとSCOは、中国・ロシア・中央アジア4国に、インド・パキスタン・イラン・モンゴルが加わり、計10カ国になる。10カ国というと大したことない。
しかし、世界経済を牽引するブリックスのうち3国が加盟国というのはインパクトがあります。
そして、ロシア・イラン・カザフは世界的資源大国。
このように、中国はアメリカが支配したい資源たっぷりの中東・ロシア・中央アジアで着実に基盤を作っているのです。


○中国最大の武器
アメリカのいじめに耐えかねたプーチンが、「石油をルーブルで売る決断をした」という話をしました。
反米国家最大の武器は「ドル体制を崩壊させるカード」なのです。中国はこの点どうなのでしょうか?
ロシアの武器は石油ですが、中国の武器は「外貨準備」と「米国債」。
06年4月3日、オーストラリアを訪問中の温家宝首相は、「今年2月に外貨準備高が8536億ドル(約100兆円)に達した」と語りました。
日本は同月末、8500億ドルだったので、中国は外貨準備高で世界一に躍り出たのです(06年11月に1兆ドルを突破。10年3月時点で2兆4000億ドル)。
また、中国人民銀行の発表によると、同国が保有する米国債は09年末時点で7500億ドル(約67兆円)。

「いざとなったらドルを売るぞ!米国債を売るぞ!」

というのが中国のカード。
もちろん、これは簡単に切れるカードではありません。ドルが暴落し、アメリカの消費が激減すれば、世界の工場・中国も大打撃を受けます。
しかし、米中の対立が激しくなり、中国共産党幹部が

「このままいけば俺らはフセインのようにブタ箱行きだ!」

と感じたら?

「自分の命と権力と金を守るか?」

「アメリカを没落させ、世界恐慌の引き金を引くか?」

の選択を迫られれば?
もちろん世界恐慌を選択しますね。
米中関係が最悪になった場合、中国はドルと米国債をなげうってアメリカを葬るカードもあるということです。


○崩壊するドル体制
ユーロ誕生からはじまった倒幕運動は、中ロ同盟により世界的潮流になっていきます。
そして、ついにアメリカの没落が目に見えるようになってきました。
具体的には、「ドル体制の崩壊」がはじまった。
ユーロは2002年1月1日から現金流通が開始されます。
この時、1ユーロは0.89ドルでした。
その後、ほぼ一貫してあがりつづけ、リーマン・ショックが起こった08年9月には1.5ドルを超えていました(リーマン・ショック後、ユーロは対ドルで下落しました。これは世界にでていたアメリカの資金が、危機で本国に帰還した(ドルを買った)からです。そして、「リーマン・ショック前」と「リーマン・ショック後」は「まったく別の時代」と考えるべきです。ユーロはドル体制を崩壊させましたが、結果欧州経済までも破壊されることになったのです)。
現在ユーロは22カ国で使用され、各国の外貨準備にもひろく利用されるようになっています。現金流通でも06年末時点でドルを超えました。

イラク・イランにつづき、親米中東産油国もドルからの離脱を目指しています。
サウジアラビアクウェートアラブ首長国連邦オマーンカタールバーレーンがつくる「湾岸協力会議」は「湾岸共通通貨の導入」を目指している。

GCC首脳会議声明、2010年の通貨統合目標維持へ=事務局長
07年12月4日18時29分配信 ロイター[ドーハ 4日 ロイター] 湾岸協力会議GCC)首脳会議の声明では、2010年までに通貨統合を達成することへのコミットメントが維持される見通し。>

これが現実化すると、

「ドルで原油が買えなくなる」

というトンデモナイ事態になります。
もちろん実現するかはわかりませんが、中東産油国がこういう「意向」を公言している事実だけでも、「アメリカの衰退」がはっきりわかるでしょう。

2008年10月末、中ロ同盟が「ドル基軸通貨体制」を崩壊させる爆弾を落としました。

<中露首脳、世界の金融取引で使われる通貨の拡大提唱
10月28日23時34分配信 ロイター[モスクワ 28日 ロイター] 中国・ロシアの両首脳は28日、世界の金融取引で使用される通貨の拡大を提唱した。
ロシアのプーチン首相はモスクワで開催中の中露フォーラムで、ドルよりもルーブル人民元による2国間取引を提案。>

既述のように、「ドルが基軸通貨」であることの基盤はアメリカ以外の国々(たとえば中国・ロシア)が貿易する際、自国通貨(たとえば人民元ルーブル)ではなく、ドルを使っていること。
もし中ロが貿易で自国通貨を使いはじめたらどうなるのでしょうか?
そう、ドルは両国にとって「基軸通貨」でなくなるわけです。


○一極世界から多極世界へ
08年、ついにアメリカの「一極世界」が崩壊しました。
世界は、新たな世界秩序を模索しはじめます。
08年11月14日、G20による金融サミットが開催されました。
G20とはなんでしょうか?

G8といえば、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、ロシア。
これにアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、サウジアラビア南アフリカ、トルコ、ヨーロッパ連合(EU)が加わります。
G20が世界GDPに占める割合はなんと約90%。

これまで世界の運営はG8(G7プラスロシア)が中心に行っていました。
ところが、G8の力が相対的に弱まり、ブリックス(ブラジル・ロシア・中国・インド)やその他の大国抜きで何かを決めても意味がなくなったのです。
つまり、アメリカを中心とするG8の時代は過ぎ去り、G20の時代が到来した。
アメリカ自身も08年11月、「一極世界は終わり、多極時代になる」ことを認めます

<2025年「世界は多極化」…米国家情報会議が予測
11月21日23時13分配信 読売新聞【ワシントン=貞広貴志】米国の中央情報局(CIA)など16情報機関で構成する国家情報会議(NIC)は20日、世界情勢を予測した報告書「世界潮流2025」を公表した。>
<中国、インドの興隆により、富と経済力が「西から東」へと動くことから、世界は多極化へと移行。
一方で、米国は支配力を減じ、「西側同盟の影響力は低下する恐れがある」と警告した。>

この予測は極めてまっとうであり、もはや「既定路線」といってもよいかと思います。


○中国、新たな世界通貨体制を提案
世界中が「ドル体制の崩壊」に気がついた。
しかし誰も、これからどうなるか知らない。
そこで、アメリカから「G2」とよばれ自信たっぷりの中国が「新たな秩序」を提案します。

中国人民銀行中央銀行)の周小川総裁は23日、国際通貨基金IMF)の特別引き出し権(SDR)がドルに代わる可能性を示唆した。
SDRはIMFが1969年に創設した準備資産。
周小川総裁は、人民銀行のウェブサイトに掲載された論文の中で、SDRが準備通貨として機能する潜在力があると指摘した。>
(ロイター 09年3月24日)

中国が「ドルにかわる準備通貨」として提案している「SDR」とはなんでしょうか?
IMFのHPから引用してみましょう。

特別引出権(SDR)
SDRは、加盟国の既存の準備資産を補完するために1969年にIMFが創設した国際準備資産です。>
なぜSDRは創設されたのでしょうか?

特別引出権(SDR)は、1969年に固定為替相場制のブレトン・ウッズ・システムを支援するためにIMFによって創出されました。>

ブレトン・ウッズ・システムとは?
1944年7月、アメリカ・ニューハンプシャー州ブレトン・ウッズで、連合国通貨金融会議(45カ国参加)が開かれました。
ここで、戦後の国際金融システムのあり方を定めたブレトン・ウッズ協定が締結されます。
具体的には、国際通貨基金IMF)と国際復興開発銀行(IBRD)の設立が決定されました。
さらに、世界通貨体制として、金(ゴールド)1オンス=35米ドルと定め、そのドルに各国通過の交換比率を定める金ドル体制を採用。これにより、日本円は1ドル=360円に固定されます。

<しかし、その重要な準備資産の2つである金と米ドルの国際的供給は、世界貿易の拡大と当時起こりつつあった金融発展を支えるには不十分であることがわかりました。>

これはつまり、金(ゴールド)の量が世界経済を発展させるのに十分でなかったという意味。
アメリカは終戦直後、「世界の工場」で「世界一の貿易黒字国」でした。しかし、日欧が復興を完了すると、アメリカの貿易収支は悪化。
金がアメリカから流失するようになり、ブレトン・ウッズ体制維持が困難になっていきます。

<そのため、国際社会はIMFの監視の下に新しい国際準備資産を創出することを決めたのです。>

つまり、1969年の時点で、「このシステムには永続性がない」と見られていた。
そして、SDRがつくられた。
つまり、SDRはもともと「世界通貨になるべく」考案されたものだったのです。
しかし、SDRは現在にいたるまで世界通貨になっていません。
なぜでしょうか?
1971年、ニクソン・ショックによりブレトン・ウッズ体制は崩壊。
世界は変動相場制に移行し、米ドルを基軸通貨としながら今までなんとかやってきた。
要するに、ドルが強かったので今までSDRは必要なかった。
しかし、アメリカ経済がボロボロになったので、

「もうドルは基軸通貨としての役割をはたせません。SDRを進化させて国際通貨にしましょう!」

というのが中国の提案なのです。
この提案が実現するかはともかく、世界では既に

「アメリカ幕府倒幕後の新世界秩序模索」

がはじまっていることがはっきりわかるでしょう。


◇おわりに
長い間おつきあいくださり、ありがとうございました。
皆さんとお別れする時間が近づいてきました。
ここまで、アメリカが没落するまでの過程を詳細に書いてきました。
今まで聞いてきた話とは全然違う真実があることに驚かれたのではないでしょうか?
既述のように、08年と10年ではまったく違う時代になっています。
10年9月、「尖閣諸島中国漁船衝突事件」が勃発。
日本に「謝罪と賠償」を要求する中国の傲慢な態度に、大部分の日本国民は憤りました。
なぜ中国は「凶暴」になってきたのか?
その最大の理由は、天敵アメリカが弱体化したから。
ついに中国は「天下」を狙いはじめたのです。
現在、世界情勢はものすごいスピードで変化しています。

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それでは皆さん、長い間おつきあいくださり、ありがとうございました。
また近いうちにお会いできることを心から願っております。
北野幸伯